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農家に休みはあるのか

 春作の準備が始まり、育苗ハウスに温床線を張ったり、圃場のハウスにビニールをかける準備をしている。

 この辺りは50年ほど前から雨除けの簡易ハウスでメロンなどを作るようになった場所なので、ハウスを更新しても雨除けハウスのタイプの方が多く、耐候性ハウスは10年ほど前から少しずつ導入されている。

 雨除けハウスとは文字通り雨がかからないようにビニールで屋根を覆うものなので、雪が降ったら屋根が潰れてしまう。

 なので、この辺りは冬に雪が降るので秋作が終わったら屋根のビニールを剥がして、春になって雪の心配のない時期になったらビニールをかけることになる。

 先日、やっとの晴れ間で少し風が吹いていた時に、共同でおこなうビニールかけをした。

 ありがたいことに昔から仲間同士でお互いのハウスにビニールをかけて回る共同作業がずっと続いていて、親父世代から息子世代まで10数人でビニールをかけている。大変な作業も一気に進むし、その時に情報交換などもできる。


 その作業に、新規就農の人が自分が借りるハウスでビニールをかけるのにどんな風にすればいいか考えたいから一緒にやりたいと参加してくれた。

 大きなビニールを広げると、弱い風でもビニールを膨らませるので飛んでいきそうになる。

 ハウスのタイプにもよるが、ビニールをハウスに固定する紐があって、それをうまく使いながら膨らんで飛んでいこうとするビニールをうまく押さえていく。

 それを次々としていって、6棟ほどかけてから一服している時に、その人が、「この大変さがパートナーにはわかってないんだよなぁ」と言った。

 どういうことなのかと尋ねると、夫婦で一緒に就農を決めたのだが、パートナーは休日は休むと言うのだそう。

 その人自身は農業法人に就職して現場を任されていた時期もあり、その経験があったから独立して農業をしようとしていて、夫婦2人でやる方が規模拡大していくのにいいと思って、パートナーの同意を得て就農に至った。

 私に「休めないでしょう、農業って」と言うので、そりゃ勿論、休んでられませんねぇと答えたのだが、「でも最初は違ったでしょう?休みたいと思ってませんでしたか?」と聞かれたので、私もともと牛飼いになりたかったし、牛飼いのところで研修させてもらってたので休むなんて考えてませんでしたよ、と答えた。

 そもそも、家族経営でやってる牛飼いで休んでる人なんかいませんでしたよ。とも。

 その人はああそうか、と呟いていたけれど、その人とパートナーとの認識の違いは早めに話し合わないと後々大変だと思うから、話せるといいですね、と言っておいた。


 正確に言うと、休めないことはない。

 牛飼いでも、酪農ならヘルパー制度のある地域もあるし、肉牛なら出産の近い牛がいなければ餌やりを人に頼んで休むこともできる。

 でも、それは高い人件費を払うのをいつにするか、どういう時に頼むか、経営の状況を考えてすることで、休日だから休む、ということではない。
 私がお世話になった人たちはヘルパー制度がない時代から牛飼いをしていたり、動物を世話するのだから休むなんて、という認識がある上の世代だったから、休まなかった、というのはもちろんあるし、休めなかった、というのが大きい。


 その人たちには小さい子どもがいるし、パートナーの気持ちもわかるけれど、私にも子どもがいる。

 田舎なので子どもはいろいろ送り迎えが必要になるし、長期休暇になると他の子がどこそこへ行ったなどと聞いてきて行ってみたいと言われる。

 でも、自分が畑を離れるとその時間だけ手入れしなければならない適期を逃したりして作業が遅れたり、間に合わなかったりすることもある。

 その手遅れが致命的になることもわかっているので、子どもを連れて出かける、という日を設定して、そのための仕事の段取りをして、そうしてようやく休む、ということができる。

 それができるようになるのは、安定した収入と、経験で得た仕事の流れの把握が必要だと思っている。

 雇用される側なら考えなくていいことを、たくさん考えなくてはならない。

 そのことを1人でやるにしろ、複数でやるにしろ、考えを明確にしておかないと、こんなはずじゃなかったのに、となってしまう人をそれなりに見てきたので、その人たちがうまくいくといいなと思ったのだった。

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