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羽生結弦「天と地と」①


羽生結弦選手の2年ぶりの新作について。
SPは「Let me entertain you」FSは「天と地と」。SPはノリノリでロックスターの様なプログラムでFSは和のプログラム。改めて羽生くんの芸風の広さに打ち抜かれました。

もはや試合ではなく、羽生結弦劇場の2020-21シーズンラインナップの制作発表会かと疑う様な、そんな完成度の高さで技術面含めて圧倒的な強さを見せてくれた2020全日本選手権でした。

FSの「天と地と」は平昌五輪の時の「SEIMEI」を彷彿とさせるような和のテイスト。でも同じ和の曲であっても随分受ける印象は違いました。「SEIMEI」はキャラを演じているという印象が強く、どちらかというとエンターテインメント色が強いイメージでSPのロックスターを演じる、というようなものに近いように思いました。それと割と対照的で「天と地と」は上杉謙信を演じるのではなくそこにあった心情とか精神、そういう内面的なものに寄り添ってる印象でした。「Hope&Legacy」に近いかもしれない。「Hope&Legacy」の水彩画のような繊細な美しさと、「SEIMEI」で表現した和のテイスト、これらが融合してこの「天と地と」という最強プログラムが生まれたのかなと思います。

私は羽生くんは2022北京五輪がもしあればこのプログラムで臨むと思ってます。多分その頃に抱く感想と変わってくるところも多いんじゃないかなと思うので、初演の感想を書き殴りました。

https://youtu.be/XxxlkINbMls

0:21〜


冒頭
まずジャッジ側に向かってくる眼力がすごい。SEIMEIのステップの時の目線もそうだけどこの射抜くような視線を向けられたらジャッジも+5と10.00しか出せないのでは…と思う。

0:41〜 


4Lo。私は羽生くんのループには結構フワッと上がるような印象を持っていたのですが、思ったより鋭利なジャンプで驚きました。
このプログラムの幕開けに相応しいジャンプ。見ない間に軸が細くなったのかな?(織田くんか誰かが言ってたような?)ここがLzになってもそれはそれでとっても合うなと思いました。2017ロシアでの空気を切り裂くような美しい4Lzはやっぱり忘れられないものがあります。いつか見たいなあ。

0:47〜


琵琶の音が入ってくるところ。特徴的な和楽器の音に合わせて舞ってるんですけど、このなんとも言えない和楽器特有の「間」を完璧に把握してなんなら羽生さんから音が出ているのではないかと思うほどのハマり具合。 
なんの演技でもそうだけど、例えば手を上げる、下げる、などの単純な振りでもそれだけで世界観を変えてしまうような支配力があるなと思います。
そしてやはり足元をずっと観察していても音を拾ってない動きがない。練習の賜物もそうだろうけども、例えば転倒したとかそういう予測できない動きの時でも羽生さんは恐らく無意識に全ての音を拾って動くことがあるので天性のリズム感をお持ちなんだろうなと思います。羨ましい…。

1:11〜


1:11の大きく体を開く動きまでは完全に柔らかい雰囲気。1:12で右手をジャッジ側にかざして一気に世界観が変わります。もうこの一つの動作だけで舞台のセットが全部変わるかのような…。ここから3Aまでの流れがまず絶品。お琴の音かな?繊細なフレーズに合わせて3Aに向かうのが、前から助走などは感じさせない入りだったけれどそれにさらに拍車が掛かった感じ。
また曲全体を通してなんですけど、拍の捉え方がめちゃめちゃ難しい。1、2、3、4〜って明確にとれない。以前バラード1番の練習をしていた時に、ステップのリズムが取れないといってた羽生くんに福間さんが「三拍子ではなくて四分の六拍子と考えるといい」というアドバイスをされて、ステップが見違えるように変わりました。感覚というよりも拍でリズムを捉えるのがものすごく得意なのかなとこのエピソードを聞いて思ってましたがこの「天と地と」は全然違う。なんていうんだろう、カデンツァ的な部分?と音の厚い部分が入り組んでいて、一貫したベースが全くない。それでも全ての音を捉えて動いているのはやっぱりすごいなと思いました。

そして3A2Tタノからの3Lo。
少しでも狂ったら全て崩れてしまいそうな緻密なパートを、あっさりとやってのけました。2Tを着地後のフリーレッグをそのままついて3Loの助走にはいる振りに痺れました。昨年の4CCのニューSEIMEIの「30秒短いならば助走をなくせばいいじゃない」論、マリーアントワネット的思考が生きた所でした。3Lo着地したその足でスピン。すごい。


1:44〜


私がこのプログラムで1番好きなパート。
特に1:49〜の後ろに下がっていくところ。この動きあんま見たことない気がする。神々しさすら覚えました。ジャッジの目の前まで来るところの回転系の動きは全て半時計周りなのですが、このバックした後で初めて時計回りを使う。このアクセントにときめいた。
そこから1:53の停止するまで、この世にこれ以上はないんじゃないかと思うような極上の美しさ。静と動の対比、緩急そういったものが本当に上手いと思う。思えば羽生くん自身も、繊細なようで超熱血、神々しいようで人間臭い、などなど真逆の要素をこれでもかというくらい盛り込んだ人間です。「天と地と」の緩急、静と動、は正に羽生くん自身のような、そんなものを感じさせます。 

②に続く

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