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2024年2月の読書記録

久しぶりにたくさん本を読んだので、まとめる。

さんかく/千早 茜

生活する上で食はとても大事だが、食の好みが合っても本音を晒し合うことができなければ生活には歪みが生じ、食の好みが合わなくても本音をぶつけ合えれば一緒に生きていく道もある。

誰かのためにごはんを作る喜びは確かにあるけれど、それが当たり前になると疑問が生じるのであり、親しき中にも礼儀あり、どのような間柄であっても感謝と気遣いを忘れてはいけない。

「この歳になると、自分のためだけに生きるのに飽きてくるんだと思う」というセリフが沁みる。主人公はわたしの同世代。

一人の自由も二人のバランスも難しいものだ。誰かを失望させるより、自由の代償を一人で受け止める方を、私はいつも選んできた。

さんかく

血も涙もある/山田詠美

どこまでも勝手な男と女の話。男女関係において、結婚してるとか、してないとか、本質的には関係ないのだと思わされる。

何が自分にとっての倫理にあらず、つまりは「不倫」なのか。自分なりの矜持を持って生きたい。

そして、バトンは渡された/瀬尾まいこ

映画を見たことをきっかけに再読。わたしは主人公が第二の母となった女性を「りかさん」と呼ぶのがすてきだと思っていたので、映画版の「ママ」呼びは解釈違い。

家族の定義は「自分たちが家族と認めるかどうか」であり、世の中がどう見るかとか、血のつながりとか、関係ないのだということがよくわかる。

殺人出産/村田 沙耶香

10人産めば1人殺せる世界と、カップルではなくトリプルで愛し合う世界と、夫婦間で性行為をしないと決めた夫婦が病院で機械的にセックスをする世界と、死ぬタイミングを自由に決められる世界を描いた短編集。

この作者の目に、わたしたちが生きるこの世界はどう見えているんだろうか。最初の2作品が生々しい薄気味悪さのある話だったのに対し、「清潔な結婚」はコメディのようなばかばかしさで思わず笑ってしまった。

ごはんぐるり/西 加奈子

お店選びとメニュー選びに対する「正解すぎる!」に笑ってしまった。西さんはごはんへの関心が強いけれどもグルメという感じではなく、旅先グルメより非日常が味わえるサービスエリアのアメリカンドッグに惹かれてしまったり、伸びまくっただらしない麺が好きだったり、適度に雑で力が抜けた感じが好きだった。チャーミングな人なんだろうなと思わされるエッセイ。

Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章/ルトガー・ブレグマン

上下巻の上巻が特に面白かった。事例がキャッチー。

人を信じ、愛し、親切にする。そういう欲求を持っているのが人間であり、そこに素直になれれば世界は平和になるのかもしれない。

つらい最中にある人と対する時、相手の気持ちに共感すると一緒にしんどくなってしまうけれど、相手の気持ちを思いやれば適度な距離を保ちつつ、一歩先に進めるという内容が印象的。仲良しのお友達から、「恋愛の悩みを話したら、エンターテイメントだ!となっちゃんが笑い飛ばしたことが親密になったきっかけの一つ」と言われたのを思い出す。

彼女にとっては一緒に暗くなるよりも笑ってもらった方が気楽だったのだろう。当時のわたしにそんな意図があったのかわからないけど、少なくともこの一件でネガティブな出来事に対し、一緒に深刻になることが最適解とは限らないことを学んだ。

永遠の途中/唯川 恵

裏を読んだり、発言の奥に嫌味があるのではと探ったりする主人公の女性2人。相手の発言をそのまま受け止めらるのがなぜこんなに難しくなってしまうのか。

長らくの専業主婦生活から仕事復帰するも、仕事をする自分を尊重してもらえず、夫や子どもの勝手な振る舞いを愚痴る薫に対し、独り身の乃梨子は「逃げ込める家庭があるのに働いてるだなんて」とコケにする。

わたしは乃梨子の立場に近いけど、たとえ逃げ込める家庭があったとしても、そこに自由がないのであれば嫌だなと思ってしまい、薫へ苛立つよりも同情の方が先に来てしまった。ただ、「そんな愚痴を私に言ってくる神経がわからない」という乃梨子の意見には完全同意。

子どもや孫へ期待を寄せる薫を見て、やはり人を生きがいにしてはいけないと改めて思う。この人生は己一人。それは結婚しようと子どもがいようと独り身だろうと、誰もが同じこと。

たとえ身内であっても、自分と自分以外の人は別人格であり、自分以外の人を思い通りにすることはできず、究極的には関与できないことを理解しなければつらい。

チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学/小川 さやか

香港のタンザニア人コミュニティは「ついで」の助け合いで成り立っている。彼らは商売人ゆえ純粋な慈善活動はせず、あくまで利益を意識した「ついで」の助け合い。だからお互い負担にもならない。

著者がタンザニアで調査をしていた頃の体験談がとても印象的。金銭をたかってくる人々に対し、「全財産を分け与えるから、二度とたかるな。そして今後はわたしの面倒をみてほしい」と持ち金を分配した結果、食事や衣服、移動などあらゆる面でサポートが受けることができ、生活に困ることはほとんどなかったそう。

海をあげる/上間 陽子

とにかくしんどい本。小さくて可愛い風花ちゃんがいることで著者はどれだけ救われているのだろう。

わたしもまた沖縄を無邪気に消費してきた一人であり、昨年から沖縄を度々訪れるようになったことで沖縄の現実を少し理解した気になっていたけれど、それでもまだまだ無自覚に沖縄の人たちを傷つけているのだろうと思う。

沖縄以外の地域に住む人たちが沖縄に基地を押し付けていることへ負い目を感じているけれど、じゃあどうすればいいのかはわからない。だからわたしは「島人ぬ宝」を聴いて泣く。

東大教授が語り合う10の未来予測

「自動運転車が実用化され、EVが発展すれば一人暮らし用の家は不要になる」という話が好きだった。固定した場所に住まなければいけないという概念が変わったら、わたしはより楽しく生きられそう。

あとはエントロピーの話が面白かった。わたしは2022年夏に「このまま同じ生活が続くのでは」と、先を見通せる気がしてしまったことで不安になり、偶然性を求めて旅に出たが、これもエントロピーを解放するための行動だったのだろうか。

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