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【工芸探訪】インテリア・デザインの国際見本市メゾンエオブジェを訪ねて

大学生以来、10年以上ぶり2度目のパリ。
エッフェル塔や凱旋門には目もくれず、向かった先は、インテリア・デザインの国際見本市メゾンエオブジェ。

ロンドンから夜行バスでドーバー海峡を越えて約9時間、さらに電車で1時間ほど移動して、パリ郊外の展示会場にやってきました!

ちなみに会場内は原則として写真撮影が禁止されているため、今回は事前にWebページからライターとしてプレス登録のうえ、各ブースで了承を得てから写真を撮らせていただいています。

約3,000のブースが並ぶ会場内のすべては到底見られず、工芸関係の出展が多そうなエリアを中心に回りました。
その中で、日本からの出展者さんのブースの一部をご紹介します。

顔見知りの職人さんや初めましての方々と実物を見ながらお話しできて、新たな挑戦など伺うことができました。

京都府がオーガナイザーを務めるPRECIOUS KYOTOのブース
青森県庁が設置する青森県ブース

会場を回ってみて、こんな風に都道府県単位で打ち出すのは他の国からの展示ではあまり見ないやり方で、一長一短の難しさがあるなぁと感じました。

私は国際見本市への出展に直接関わったことがないので、想像の域を出ないところが多々ありますが、ファミリービジネスなど中小規模の事業者が多い日本の伝統産業、一社ごとに出展料や渡航費をかけて国際見本市に出すのはなかなかハードルが高いものと思います。

また金銭面だけではなくて、お金を出せば必ず出展できるわけではないという展示会の主催者側が設けるクオリティ面でのハードルもあるはずなので、(もちろん一社で出展されているところも複数あったけれど)いきなり単独でそこに取り組むのはあまり現実的ではなさそうに見えます。

そう考えると、自治体などからのサポートでチャレンジしやすい環境が作られているのは貴重なこと。
例えば、青森県ブースへの参加企業の募集要項を見ると、下記のようなサポートがあるようです。

【参加企業の負担】
1.事業参加費15万円(見本市出展料に充当)
2.参加スタッフの旅費(渡航費、宿泊費等)
3.商品代、国内外輸送費(往復分)
4.独自のパンフレット等のPR用品
5.特別な備品のレンタル経費

【県の支援】
・見本市出展料(参加事業費分を除く)
・ブース施工費
・通訳配置
・カタログ(青森県ブース)製作費
・現地バイヤーへの広報
・基本日程での同行サポート

https://www.pref.aomori.lg.jp/release/files/2022/70919.pdf

自治体での企画なので、業種ごとの縦割りではなく、異分野が連携した作品が生まれているのを見ることができたのも面白かったです。

洸春窯の焼き物 × 楽芸工房の焼箔のコラボレーション

一方で、ただの一来訪者として広い会場を巡る立場で見ると、産地でくくって色んなものを一つのブースにまとめる形は、世界観としてはどうしても目を惹きづらく、バリエーション豊かな素材や商品も一部しか展示されないので、イメージが膨らみにくいデメリットも感じたのが率直なところ。

下記の写真は、なんとなく気になってふらっと立ち寄った日本以外のブランドの展示です。
世界観のあるブランドに吸い込まれ、時間と体力がどんどん溶けてゆく……

事前のプレスリリースにしても会場のブースにしても、来場するデザイナーやバイヤーに「見つけて」もらうのは相当に大変だと実感しました。

この「都道府県でくくると世界観が失われる」ところを、ただの寄せ集めにならないように打ち出そうとされているのが伝わってきたのが、京和傘の日吉屋さんがされているHiyoshiya Craft Labのプロジェクト群(滋賀・東京・神戸レザー等のブース)でした。

滋賀県主催のBI WA KOTO
東京都産業労働局が担当する江戸東京きらりプロジェクト

想像でしかないですが、キラキラ洗練された雰囲気の切子のグラスと、ポップな型染めの布製品と、純和風の色が強い組子細工を、まっさらな空間を使って一つの世界観にまとめるのはなかなかの難題だろうなと。

そんな中でもっと増えたら面白そうだと思ったプロジェクトの形は、「神戸レザー」のように、産地名を冠しつつも単一の素材に絞った打ち出し方です。
素材としての革とともに、カバンやスリッパ、椅子など複数の作り手が制作した商品が展示されていました。(ブースの写真を撮り忘れたのでWebページを…)

良いなぁ面白いなぁと思った要素を整理してみると、

・産地でくくって、自治体や組合単位で補助金等を活用できる体制にしつつ
・打ち出すのは単一の素材や世界観の近い商品に絞り
・その素材でものづくりをする若手や小規模な事業者が複数関われるようにする
・個々の作り手に任せきりではなく、ディレクションをして世界観を統一する
・素材そのものと最終製品、どちらでも商談につながる
・置かれている最終製品のバリエーションにより、素材の活用イメージが広がりやすい効果もある

といった点です。
実際に「ソファに使う革を探している」とブースを訪ねておられるデザイナーさんも見かけました。
神戸レザー以外で近しい取り組みは、例えば香川・庵治石のAJI PROJECTのようなイメージでしょうか。



最終製品はもちろん、日本の素材は面白い。
中間工程や半製品にもまだまだ大きな可能性があります。


その可能性がいろんな発想を持った来場者との出会いで開花するには、膨大な出展数の中で、埋もれず来場者の目に留まる必要があり、

そのためには、いざ展示するとなった時のグラフィックや空間デザインの力はあれど、そもそものプロジェクトの設計が影響する部分もかなり大きそうだというのは気付きになりました。

実際は「市の予算を使うなら公平性が…」など山ほどハードルがあると思いますし(こんな課題がという話をまた誰かにこっそり聞きたい)、こうして外から見て感じることなど、現場で奮闘されている方々にとっては自明だったり的外れだったり、それでも一筋縄ではいかない状況と向き合っておられるのが世の常と思っています。
なので、内情や現場の大変さを知らずに理想論を言うのはためらいがちなのですが、私自身、産地での打ち出し方とは少し違った角度を考えてみる機会になったので、一来場者としての感想を言葉にしてみた次第です。


日本にいるとごく当たり前に感じていた「ここにあるのはどれも○○県で作られたものです」が一番にくるプレゼンテーションは、本当に求められているものなんだろうか。
逆に、地域ごとに異なる豊かな気候風土と合わせてアピールできるぐらい、幅広い種類のものづくりが各地にあるのは日本のユニークさでもあるけれど。

と、場面は違えど、私も産地単位でのイベント等を企画してきた身なので、改めて考えさせられたのでした。


いずれにせよ、海外で展示する機会を作り、各方面で挑戦をされた方々の力で、言葉や文化の壁を超えてあの場で生まれていた会話たちはとても尊いものでした。
出展に関わられたみなさま、本当にお疲れさまでした!



番外編

1.メゾンエオブジェ in the City

展示会の期間中にパリ市内で開催されていた、市内各所のインテリア等のショールームでの企画がマップに落とし込まれたものです。かけ足で2軒だけ見てきました。

リヨンのファブリックメーカーPrelleでは、西陣織やジャガードなどの話でスタッフさんと盛り上がったり。

5世代続く刺繍メーカーのMaison Duchenoyでは、代々受け継がれてきたデザイン集をアーカイブする取り組みについて聞かせていただいたり。

2.Empreintes -The French Craft Concept Store

2年に一度のアート・工芸品の国際見本市「Revelations(レヴェラシオン)」を主催しているAteliers d'Art de Franceのコンセプトストア。
主にフランスのアーティスト作家さんの支援を目的に、工芸品を展示販売されています。

日本をはじめフランス以外の作家さんの器や作品もあったのですが、「これは明らかに日本のものではなさそう」とぱっと見て感じるものと、そうでないものとの違いはどこにあるんだろうと考えていました。

3.Galeries Lafayette
老舗百貨店のギャラリー・ラファイエットでは、あまり中の売り場を見る時間はなかったですが、一番の目的はドーム状の吹き抜けでした。

ロンドンでステンドグラスを修復する職人さんのトークセッションを聞いたことがあるのですが、ドーム状だとどうやって修理するのでしょう…?
新しいものを作るだけが工芸や伝統産業ではなく、昔からのものを修理しながら継承するのもまた技術ですね。

4.OGATA paris

東京のHIGASHIYAや八雲茶寮などと同じく、建築家の緒方慎一郎さんが手掛けられた複合施設です。
レストランやギャラリー、茶房など、驚くほど広い館内で日本の文化に触れることができます。

地下の空間で開催されているお香のワークショップが気になり、後から調べてみたところ、京都の松栄堂さんが商品やプログラムの開発・運営に携わっておられるよう。

もとのパリの建物(17世紀のものだとか)と和の趣が重なるとこうなるのか、もしロンドンだったらこのような場は生まれなさそう…などなど、日本でHIGASHIYA・八雲茶寮を訪ねた時とはまた全然違った感覚でした。

https://ogata.com/paris/en/boutique/?sw=kaori

そんなこんなで、フランスや日本の工芸にパリで触れる2日間になりました。
予想の何倍も楽しい街だったので、今回は行けなかった場所を中心に、また近いうちに訪ねたいと思います。


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