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誰かを救うため、ピルの話をし続ける



中高生の妊娠相談が相次いでいるというニュースを目にした。


自分が学校教育で、性教育に力を入れられなかったことにさらに落胆する記事だった。教師たった一人の力ではどうにもならないのは承知だが、「もっと、学校で性の話が堂々とできれば、自分の身体や将来を守ったり、よりよくする選択ができる」とわたしは思い続けていた。

学校教育に携わっていると、目の前の教え子に自分の人生をかけて全力で教育をすることはできる。それはどんな人にもできる経験ではないので、この仕事の醍醐味はそこにある。

ただ、目の前にいない子(例えば他の学校に通う子)は当然救えないし、目の前にいる子ですら、学校教育というしがらみの中で言いたいことが言えずに接している。

教育者として様々な苦悩を抱えてきたわたしが、これからできることは文章にすることだと思っている。書いて発信する機会と自由を増やすために、教職を離れたようなものなのだから。

ネットを眺めている学生や、性教育を受ける機会が少なかった大人や、子どもとの向き合い方に悩む保護者が、たまたまわたしの記事を目にして、救えることはきっとあるはずだ。

目の前の教え子に対して、「教師として振る舞うことを意識して、うまく言葉を伝えることができなかったわたし」だからこそ、これから自由に言葉で誰かの生き方を楽にしたい。




ピルを服用している経験を伝えたい


個人的には、学校教育でピルを「選択肢の一つ」として推奨していく世の中にしたいという思いがある。わたしは医療関係者でもないので、ピルに対する詳しい知識はない。だが、十年近くピルを服用してきた経験から、話せることは多いと思うのだ。


毎日飲むタイプのピルを服用している女性はどれくらいいるかというと、あるデータでは、日本では4%しかいないという数字を耳にした。他の先進国では、半数近い女性がピルを服用しているとのデータもある。たったそれだけの女性しか、日本ではピルに頼っていないのだとショックだった。

生理痛やPMSに悩むことを、「わたしだけではない」という、我慢は美徳という精神で、もしかしたらみんな乗り切っているのかもしれない。確かに、1ヶ月の中ではたった1回、または数日間の苦しみなのだ。終われば過ぎ去るし、痛みも忘れる。

実は、そこがよくない。人生に置き換えれば、何百回我慢しなければいけないのか。程度の差はあるが、何百回の我慢を何千万人もしている。その我慢がもしなければ、または周囲に理解されれば、どれだけ日本はもっともっと社会的に向上した国になれるだろう。


アフターピルを飲んだ苦しみを伝えたい


ピルを飲む人がそれだけ少ないのだから、アフターピルに頼る人もまた少ないかもしれない。婦人科に立ち寄る習慣のある人は、そんなに多くないのかもしれないと感じる。

アフターピルを飲んだ人の経験談というのも、貴重なものになっていくのだろう。なかなか周りには堂々と話せるはずがない。どう解釈されるかわからないし、(ナマでしたのかとか、ビッチなのかとか) 「アフピルもらってきた!」なんて軽々しくツイートすることを避ける人も多いだろう。

また、男性は彼女に「アフピル飲ませた」なんて言おうものなら、バッシングを受けまくるだろう。アフピルがどれだけの値段だとか、副作用がどんなものだとか、男性が知る手段がほとんどない。(ちなみにわたしは1万円近くかかった)

わたしは全然、「アフピルは、避妊の一つとして対応した」と、人に言っていけばいいとは思う。経験談のひとつとして語るということだ。様々な発信をしていろんな発見を見つけていくことが、自分の人生をよくするため、誰かがよりよく生きるためのきっかけになるだろう。

そうは言ってもまだまだ、「アフピル飲んだ!」という経験をつぶさに語る人は少ない。性教育を積極的にやっていこうとする人ほど、普段の避妊に慎重になるだろうから、アフピルを飲んだ経験がない場合が多い。つまり、はっきり言ってしまえば学術的なことや表面上のことしか言えない可能性もある。

また、たまたまコンドームが破れてしまっただとか、避妊の知識が少なかっただとかいう人が、アフピルを飲んだ場合、恥を意識したり、言葉にするまでもないと考えて、周りに伝える術を持つ人も少ないと思う。

ただ、アフターピルについての正しい知識は、医療関係や性教育に詳しい人に頼るのが一番だし、実際飲むまでにどんな過程を経るのかなどは必ず医療機関で確認して処方してもらうものだ。

今までアフターピルに無縁で過ごしてる人ほど、事前に調べてはいないかもしれないだろう。しかし、セックスをするということは、あらゆる「万が一」を想定して行わなければいけないはずだ。快楽を得るには、リスクも伴う。


実際、みなさんは学校の避難訓練ときに、真面目に話を聞かなかったんじゃないだろうか。災害なんて起きてみないと、本当に気をつけるべき点はわからないし、必死になれない。

だからわたしは、アフターピルを飲んだ人の経験話を、誰かがたまたま聞いてくれていたらいいなと思って話す。戦争体験を語る老人のような立場だろうか。「あなたには起こらないことかもしれないけれど、実際わたしはこんな怖い思いをした。」という話をする感じだ。後世にが楽に生きるために、恐怖は語って防いでいかないといけない。いざ自分の身に降りかかったり、誰かが困った時にはわたしの話を思い出して行動してほしい。そういった、老婆心のようなものだ。

語り手が、語るのをやめると誰も救えない。誰も聞いていないように見えても、誰かには刺さってるかもしれない。「避妊をしろ」とか「避妊は自然なことではない」とか、考え方は人それぞれだ。ただ、誰かが何かを経験したのは事実だし、語るのは自由なはずだ。誰かの経験話を知っているかいないか、それだけで人の動きは変わる。だから、わたしは語ろうと思う。


「アフピルを飲んだことがある」というのは、なかなか周りに言いにくいワードであるというのを少しでも打ち消したい。「空き巣に入られてすぐさま警察に電話した」くらい、しっかり行動したことなんだから、別に誰にでも話せばいいじゃないかとは思う。

ただ、「空き巣に入られるくらい不用心だからいけないんだ!」と言う人がいるのは確かだ。どれだけ「きちんと鍵をかけた」「不手際があったのは管理会社だ」と言っても、責められるのは個人なのかもしれない。

「アフピルを飲んだ」と、もし友人から話された場合、あなたは誰を悪者にするのか。なぜ、誰かを批判することから始めるのか。

上記のように考えたら、誰が悪いかなんてわからないはずだし、本人よりも空き巣の方が悪いに決まっている。「きちんとコンドームをした」「不手際があったのは相手の方だ」そんなことを言っても、信じないのはおかしいし、そもそもそこを考えないで、「アフピルを飲むことになったのが悪い」という考えは危険すぎないだろうか。それよりも、「よくすぐに警察に電話したね、えらいね」と、迅速な行動を讃えるべきだろう。

しかし、例えば空き巣に入られた場合の対処方法を知らなければ、警察に電話をかけられない。空き巣に入られたことを泣き寝入りするしかない。アフターピルがどんなものか知らなければ、自分が助かるかどうかはわからないのだ。

話は長くなったが、今回はピル・アフピルを飲んだ自分の経験をわたしは、これからどう活かすかを語っていきたい。



ピルへの取り組み1:小説「アフターピル」公開


わたしが、わたしらしく、わたしにしか出来なさそうな行動として、「アフターピル」を題材にした小説を公開することに決めた。

わたしは、文学で性教育がしたい。これが、自分の人生のテーマなのかもしれない。

元々創作活動をする中で、合同誌(※現在は完売・再販なし)にしていたものだが、アフピルを飲む苦しみをいろんな方にわかってほしいと思って、一つの形にしたものがこれだ。

一度、イベントで頒布していたもので、冊子のみの公開だけにしようと思っていたのだが、昨今の「性教育を曖昧にしてきた日本人のモラルの低さ」「女性のキャリア・ライフスタイルの苦悩」を、より多くの人に分かってもらいたいと思って思い切って公開を決めた。

教師・学校を題材にもしている。6000字程度の短い小説なので、ぜひ読んでほしい。

↓小説「アフターピル」なつみ

↓合同誌の説明


同時に、合同誌のみの公開だった染よだかさんの作品も公開しているので、こちらも興味があれば読んでいただきたい。「先生」をめぐる女性としての生きづらさを描いている。なつみは染さんの小説が大好きだし、染さんはわたしの小説の最大の理解者だ。


↓小説「沈みつつある」染よだか

↓「沈みつつある」の説明



ピルへの取り組み2:オンラインで助産師さんとピルの話


教育に興味がある人が気軽に語れたり交流を持ったりできる場を作ろうと思い、2020年5月から、「オンライン教師BAR」という取り組みを始めてみた。

元々漠然と、「ストレスを溜めがちな先生たちが気軽に集まれるBARを将来開きたいな」という気持ちがあった。また、自分の「元教師」という経験を活かして、楽しくも教養のある話を多くの人とできたらとも考えていた。

学校の先生や、気軽に教育について話したい人、(下ネタが好きな人)が集まり、「研修」や「勉強会」のような堅苦しい真面目な雰囲気がなく、気さくに教育について話せる場を作りたくて「オンライン教師BAR」という場を今回設けてみた。


その中で、助産師まゆさんとピルについて話す会があるので、興味のある人は参加してほしい。普段、ピルについて周りに話すことができない方や、ピルについて少しでも知識を増やしたい方は気軽に話に来てほしい。聴いてくれるだけでもOKという場でもある。助産師まゆさんがしっかりとしたピルの知識を伝授してくれるし、ピルあるあるなどの気さくな話もできたらと思う。男性の参加も可。

・2020/5/27水 20:00〜22:00
・席料¥800
・BARというコンセプト上、今回は未成年参加不可



ピルへの取り組み3:ピルの経験談を記事にし続ける


わたしがなぜ、ピルについて語り続けるか。

医療関係者に頼れば、ピルの詳しい効果や副作用、診療代がわかるかもしれない。しかし、ピルの情報が欲しい人たちは、「ピルを飲んだ経験者の話」を聴きたい場合が多い。

・「副作用はあるのは分かった。実際本当にあるの?」
・「毎日、薬飲み続けることできてる?」
・「飲み忘れたら妊娠する?」
・「パートナーに飲んでるって伝えてる?」

医療関係者が処方の際には別に答えないだろう、こういう何の気なしの疑問こそが気になっていると思う。

わたしのnoteの中で一番読まれているのはこのピルの記事である。ピルを飲み続ける場合と、一旦中止するメリットデメリットに触れている。この比較がまだできる人は珍しいのか、この記事は10万viewを超えている。


また、先生として「こんな性教育ができたら!」「ピルも、女性の生き方の選択肢として学生の段階で知ることができたら!」という思いから書いた記事がこちらである。よければ、学生の段階で、教師からピルについて教えられた体験をしてみる感覚で読んでほしい。



性の話をする時に頼れる姉さんになりたい


まだまだ日本では、堂々と、「わたしピル飲んでる!何でも聞いて!」と身内に言える雰囲気がない。もちろん、そういう気さくな関係を築き上げている人もいるが、まだまだ少ないのではないだろうか。

「わたしピル飲んでる!何でも聞いて!」と頼られるほどの存在になりたくて、ただのピルの服用者としてではあるが、いくつか記事を書いた。

ただ、医療的な知識は薄いので、質問に全て答えられるわけではない。経験談を臆することなく語りたいだけである。


わたしは、日本社会ではわりと早い段階でピルを飲んでいた女性だと思う。たまたま膀胱炎で訪れた婦人科で、生理痛の話をすると、「ピルがいいよ」と医者に言われて、学生のうちから軽い気持ちで飲み始めた。

ピルを始めてから、生まれ変わったかのように死ぬほど苦しんだ生理痛から解放された。めちゃくちゃ幸せだった。ピルがなければ、「教師」という仕事を乗り越えられてなかったと言っても過言ではない。

ただ、ピルを飲んでる話は周りの友人にはなかなかできなかった。職場でも言えなかった。「婦人科に通っていて」という話からジャブを打ってみても、「独身なのにどうしたの?」という反応だった(怖い)。


また、ピルを飲んでいるのにアフターピルを飲んだ経験もあるのと、ピルを一時的に中断した経験もある。その上、今は120日間生理の来ないようにできる「ヤーズフレックス」という種類のピルを服用している。人体ピル実験をいつの間にか行ってきた人間だ。


ピルには、たくさん助けられた。感謝はめちゃくちゃしている。

だが、日本のピルは高すぎる。毎回婦人科で払う額には、イラッとするどころではなく、「男に生まれたかった、畜生……」と思い続けている。年間何万円、その分美味しい寿司でも食いたい。


わたしのnoteのピルの記事を読んで、「ピルを飲み始めました。おかげで生活が楽になりました」と伝えてくれる人もいて、時間とお金をかけて経験を培ってきてよかったとは思っている。真面目にピルを飲んできてよかった。

(ちなみに、わたしはピルを飲む時間はぐうたらで、ズレまくりである。きちんと飲むというより、「続ける」ということが大事かも)

命の危機を感じるほど苦しい生理痛がなければ、「ピル」によって思考することも、発信することも、誰かを助けることもなかった。痛みは何もなければ幸せだろうが、わたしはピルを知って、こいつと付き合ってきてよかった。

ピルへの理解が進み、日本がより過ごしやすい世の中になるよう、祈ってやまない。

会ったこともない、顔も知らない、そんな「誰か」を救うために、日本で女性が生きやすくなるために、わたしはこれからもピルの話をし続ける。




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このnoteがよかったという方は、引用RTやサポートをしてくださると嬉しいです。読んでいただきありがとうございました。今後も、自分の文章を読んでくれた方を幸せにしていきたいと考えていますので、また読みに来てくださると嬉しいです。


再掲になりますが、小説とオンライン教師BARの取り組みを応援してくれると嬉しいです。









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