見出し画像

シングルファザーに恋をした






「俺、バツイチだけどいい?」


いいとは?と思いながら、LINE交換をすると、本人が小さな赤ちゃんを抱きかかえている写真が、スマホに映し出される。

「子どもがいて、こっちで育ててる」


シングルファザーというやつか。


正直、この男性とは、飲み屋のその席で、会うことは終わりにしようと思っていた。クラブでナンパしてきて、どうしてもわたしのことを離さず、終電まで一緒に飲んでくれと言われて、可哀想なので一緒にいた。わたしをたいそう気に入ってくれているようではあったが、髭面はそんなにタイプではなかった。

しかし、シングルファザーというその経歴に興味を持ってしまった。自分の周りではあまりいない存在だったので、その生態が気になってしまった。

この人から、連絡を待つようになったことが、わたしの切ない恋の始まりだった。



初めての、父親だけの懇談

これは仕事の話。

新担任との挨拶、成績確認と進路指導を兼ねて、蒸し暑い季節にも関わらず、保護者に来校してもらう、懇談期間のこと。

クーラーの風量を調整する。十五分や二十分間隔で何組かと話して、渇いてしまった喉を、ペットボトルの水で潤す。

勤務時間を過ぎて、ようやく待機する親子もいなくなる。カーテンの奥を覗くと、いつの間にか外は真っ暗になっている。


「遅くなってすみません」

一人の男性が教室のドアを開ける。しまった、水は飲んだが、リップクリームを塗り忘れた。唇がカサカサだと気づくが、目の前で塗るわけにはいかない。「そんな、お忙しい中来ていただきありがとうございます」と、椅子を引きながら下を向き、着席を促す。

担任をしているクラスの、生徒の父親。母親がいないということは、入学前に提出してもらう、家庭の情報を記入する用紙を目にしているので知っている。

ただ、他の家庭との対応の違いは、知らない。母親のみの家庭はわりと多いので、それと変わらない対応でいいのだろうかと、教師歴の浅いわたしはそわそわしてしまう。


学校とはいえ、男性と女教師が二人きりの状況。向こうはそんなことを思ってもないだろうに、わたしの方が変なAVのシチュエーションを想像してしまってる。

ここから先は

9,886字
この記事のみ ¥ 500

気に入る記事がございましたら感想やシェアいただけるだけで十分です。ありがとうございます。