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【SS】有楽町の猿

数えていないけれど、七秒だったと思う。そんなことってあるのかと、可笑しくて笑うしかなかった。

ガード下にある店で待ち合わせた青年は、ニキビがわりと多かった。プロフィール写真の加工がなければこの青年と会ってはいなかったのかと思うと感慨深い。

煙草の臭いが漂う喧しい場所だが、彼は読書をして待っていた。スーツ姿の人ばかりの中、やけに肌が焼けているのに真面目そうな黒縁メガネで、青のチェックシャツを着ていて、スポーツマンとも大学生とも言えない正体不明な身なりだった。話しかけると紳士的な笑顔をして眼鏡を外した。

昔から肌の黒い人が好きだった。何故だろうと考えてみるが、歯が白く見えるからかもしれない。その似非の爽やかさに目が眩み、幾度となく痛い目をみてきた気がする。

ビールの種類に詳しい彼は、2軒目にいいところがあるとソファーで横たわれる店に案内してくれた。ヒューガルデンホワイトとカールスバーグの瓶を空けただけで結局飲めなくなるし眠たくなってしまった。

わたしの家に着いてすぐ、「今日は狼になるかもしれない」などと言って、シャツのボタンを自分で一つずつ外し始めた。服装とのギャップが激しかった身体は、職業は海猿と意気揚々と答えるだけのことはある。

厚みのある腕も胸板も逞しくて安心できたのに、前戯を四秒ほどのキスで終わらせ、すぐに「ローションない?」と聞いてきたことは、今でも夏の怪談として語り継げると思っている。

ローションの有無は聞くくせにコンドームの有無はさほど気にしていなかった。無いときっぱり答えると、嬉しいような困ったような顔をしながら、「これはすぐ気持ちよくなっちゃうやつじゃん 」と言っている。本当にあんなにすぐ気持ちよくなるとは思わなかった。

二度目の復活もなく、猿は寝入っていた。朝、起きてから再びしてみたが、たぶん十二秒くらいだった。もう笑うことすらできなかった。



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