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善意とデマとド素人(3)

そうか、この人は、正しさよりも「気持ち」をとるのか。

善と独善の違いをまざまざと見せつけられたような気がした。
いやもしかしたら、先方は全てを否定されたような気持ちになったのかも知れない。言葉に配慮が足りなかったかも知れない。
だがよしんばそうであったとして、軌道修正出来ないのはどうなのだろうか。SNSなら、ただの呟きだからだろうか。罪に問われる内容でない限り、責任を取らなくて済む場所だから──。
それとも。

所詮わたしが「素人」で、その人が「医療関係者」だからか。

真夜中、目が覚めてツイートした。
そんな時でもギャグを混ぜてしまう性分。

肩を落とし、しばし考え、また指を滑らせた。

陰謀論めいた発言をした看護士さんは、ソースを読んでくれた。
「予防的摘出が必要」と誤ったツイートをした医師は、指摘した内容を理解して自ら削除した上、正しい内容のツイートまでしてくれた。(なお2020年3月現在でも、BIA-ALCLのリスクに関連してインプラントの予防的摘出は推奨されていない。)

こちらの意図が伝わった後は、わたしも出来る限り指摘ツイートを消した。多分、ほぼ残っていないと思う。誰が指摘したのかは、その内容と比べて些細なことだと思うのだ。

わかってくれる人もいる。心にあかりが灯った。
そして再び指を滑らせる。見知らぬ誰かが、間違った情報や罠につかまらないように。

ド素人がするようなことではない。出しゃばりだと詰られても仕方がない、その自覚は充分にある。
その上で、また一歩前へ。

 ◇ ◇ ◇

時事ニュースだから、インプレッションは伸びやすいはずだ。
だから、あまり考えたくないことだが──影響力確保のため、耳目を集めようとして、何ら関係もないのに詳細確認もそこそこにツイートする人はいたと思う。SNSでは自己顕示欲が掻き立てられたり、露わになりやすい。
専門ではないのに、典拠もなく不正確な内容を断言するシーンが目に付いて、そのたびに虚しくなった。少し探せば、情報はたくさんあるのに。

そのほうが「伸びる」から?

正直なところ、患者はこうして利用されるのかと、非常にやるせない気持ちになった。それすらもただの疑心暗鬼だと嗤われるだろうか。

だが一素人の話に耳を傾け、公的情報をそこで確認し、誤りを正してくれた人々は、元々善意からツイートしていたと信じたい。
逆に言えば、善意からであっても医療関係者であっても、間違うことはあるのだ。

SNSでは、ことTwitterでは「自浄作用が働くからメディアより安心」という言葉を頻繁に目にする。
だがあの時、わたしが駆けずり回った場所に、プロは駆けつけて訂正などしてはくれなかった。RTがついても、いいねが伸びていても。

SNSに訂正放送はない。訂正記事もない。
その義務はないのだ。

見えていなければ、見つけていなければ、他者からの訂正はなされない。
彼らの目の届く範囲にのみ赤ペンが入るのだ。

だが、その危うさに依存し「どうして他の専門家が訂正しなかったのか」と憤りを転嫁することは、医療関係者に「万に一つも見逃さないネット警察たれ」と無茶な要求をしているようなものだ。
それは所謂「やりがい搾取」や「江戸の恨みを長崎で晴らす」と何が違うのだろう。

だから、わたしはそのような感情を持たない。これは単純に、わたしの意志だ。どのような属性も、乱雑に十把一絡げにはしない。狭義の専門家でなくても、しっかりと調べた上で発言している人もいる。

SNSもまたひとつのメディアであることは、今更言うまでもないことである。

 ◇ ◇ ◇

同じ頃ニュースにおいては、キャプションは些か残念なところが見受けられたものの、正確な情報を流していた。キャプションでは、死亡者数のみで確率について触れられていないものが複数あったのだ。死亡者数は省いたほうがすっきりする。

キャプションで耳目を集めるのは、その性質上幾分かは致し方ないのかも知れないが、ネットニュースのよくない部分だと思う。無用な不安を駆り立てるのではないかと危惧したのは確かだ。

「人工乳房が原因で死亡例」くらいのほうがマシだろうか。元キャプションだと、確率の低さや母集団が不明なため不安を招きかねないと思う。

指摘する一方、褒めるべきは褒める。

一方で速報の本文については、もしも後から読むならば、公的な情報公表までのタイムラグを考えなければならない。情報の欠落が生じるのは仕方ない部分はある。速報段階とはそういうものだ。
概ね正しいが、必要な情報が全て含まれているわけではない。それを加味して読み、見るのが速報だからだ。わたしはリアルタイムで手当たり次第に読み漁っていたが、見た範囲ではおかしなところは見当たらなかった。

オールドメディアによる発信については、詳報に丁寧なものが多かった。わたしはいかなる患者会にも属していないため、患者団体への取材記事など、非常に興味深く読んだ。

 
(つづく)

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」