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とある検査と籠の鳥

当時言及はしなかったのだけれど、実はPCR検査を受けたことがある。
濃厚接触者としてではなく、疑いとして。

発熱自体はさほどのものでもなかったのだが、熱がひかず対象となった。少し怠いくらいで、味覚も嗅覚も異常はなかった。
わたしは初期とはいえサバイバーだし、周りには闘病中の人間や高齢者もいる。万が一を思うとヒヤヒヤだ。

車で待機し、電話がかかってきたら検査専門の別棟へ。
重装備に申し訳ない気持ちになった。でもそれは必要なこと。粛々と問診。

検体採取は鼻腔咽頭ぬぐい液だったので、所謂あの耳鼻科あるあるの長いスワブ的なアレ(お察しください)を鼻につっこまれる。
でも安心して欲しい、経鼻胃カメラを経験した人にとっては、多分全然問題ない。わたしは痛みも感じなかった。

結果は翌日。陰性。
地域的に風邪が流行りはじめているので、それだろうということになった。
手洗いも消毒もマスクも徹底し、人が集まるところを極力避けるために日用品の買い物も時間をずらし、オフラインのイベントはすべて見送っても風邪に罹ってしまったのは、こたえた。
ただここで話は終わらなかった。

体調が戻っても、偽陰性の可能性があるため引き続き蟄居。
元気はあるのに何もできないというのは、頭では理解していてもさらにこたえた。また、「やっぱり身体弱いんじゃないの」的なお言葉をいただいたのも、正直大変につらかった。生活に支障がくっきりと出た。

勿論、蟄居中たくさんの人に支えていただいたことには、とても感謝している。その感謝の分だけ、気持ちはずっと重苦しかった。
周りも、口に出そうが出すまいがつらかっただろうと思う。「もしも」が頭をよぎるとき、さらにその周りの人たちへの思いが胸を締め付けたであろうことは、想像に難くない。

いま発熱して「もしや」という状況になったら、多分想像以上につらいことを知っておいてほしい。
自分のことを守るため、生活も周りも守るため、最大限に安全を優先してほしい。

偏見はよくない。優しさは大切だ。多分それは、誰もが知っている。
だが恐怖は、人の心を簡単に操る。どういう視線がこちらに向かうかは、そうなってみないとわからない部分がかならずあると思う。そしてそうした感情の動きについては、多分誰も責められない。
どうか出来る限り健やかであれと、心から願う。
 
 

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」