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僅かにふれる

外出先から帰って、何の気なしに熱を計ったら微熱が出ていた。
またか。それにしても、体温低いかと思うとまた微熱。
このご時世だから、仕方ない。以後の外出を取り止めておとなしくしていた。

他に目立った症状がないから良いものの、こんな時期に風邪様の症状がある人ならば、さぞかし心配になるだろうと思う。
時として感情は理屈を易々と越えていくものだ。恋愛がそうであるように。

診断がつかないというのは、なかなか不安なものだ。
だから、風邪のような症状が出てパニックになる人を、わたしは軽んじられない。そうしたくない。

似たような症状を持つ病気は幾つもある。その鑑別疾患を検討して、診断が決まる。診察や検査や経過観察によって排除される、幾つもの可能性がある。

過去、難病の疑いがかかっていた時、「わからないけれど身体はつらい」という気持ちをしみじみ味わった。
検査結果が出るまでの時間にも、日々の生活は続く。
その間に、身の振り方や医療費についても一応考えておかなければならない。日常のタスクに、非日常であった新たなタスクが積み重なる。身体はつらいままで。
結果としてその難病ではなかったものの、あの気持ちを忘れることはないだろう。

いまCOVID-19でパニックになっている人の中にも、「わからないけれど、つらい」があるかも知れない。

心に食い込まず、斬り込まず、さりとて置き去りにもしない──僅かにふれるような、やさしい情報がそこにあってほしい。

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」