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ふいに重なり、笑う

 わりと真剣な話だった。今後の見通しはどうするのか、長期的なスパンでの目標と短期的なスパンでの目標をどう設定するのか、という話をしていた。

 話をするとき、場所というのはかなり大事な要素だと思う。でも時間を別に取るのは難しいところに、きっかけとなるワードが偶々ひらりと出てきてしまった。そんなわけで、移動中の車内という、ちょっと煮詰まりそうなスペースで話がスタートしてしまったのだ。

 「うーん、どうしましょうね。」
 そんな風に呟かなくとも、車内に少し重い空気が立ち込めてきたのがわかる。
 その時だった。

ああもう消えそうだ
言うのは簡単 Why is it so hard
ああもうこれ以上は
遊びは効かない Before it’s too late

 音量低めで流していたSIRUPさんのアルバムから、「Thinkin about us」が会話の途切れた空間にはまるように響いた。ちょうどそこだった。耳が引きつけられる。

 「そうなんだよ、言うのは簡単だよねえ。」
 空気が和らぐ。ププッとふきだす。何も進展してなどいないのに、その場のムードは明らかに柔らかくなった。

 こういうことは実は何度かあって、たとえば藤井 風さんの「何なんw」や「もうええわ」「帰ろう」の汎用性高いはまり具合にはかなり助けられている。
 迷った時にレキシのフレーズ「縄文土器 弥生土器 どっちが好き?」(「狩りから稲作へ」)で何だかもうどうでもよくなったこともある。

 いずれもご本人にとっては何のこっちゃな話だろうが、音楽が生活に溶け込む中では、そういう予想外のことが起きるのだ。パズルのピースがぴったりはまるような、絶妙なタイミングで。
 
 音楽が暮らしの中にあり、何らかの影響をもたらす。別に、燃え盛るような熱量の要ることや堅苦しいことばかりじゃない。やわらかく馴染む、やわらかくほぐす。それもまた、影響のうち。
 くだらないことほど、後から不意に思い出す。多分、またきっとそうだ。

 

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」