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いちぬけ、にぬけ。

 見た目を武器にすることをもうやめたくて、解散する方々の記事を読んだ。
 それはそうだろうな。インパクトのあるやり方ほど、その印象は何時までも長くは続かない。人は慣れる生き物だから。
 するとより自虐しなければならなくなる。それがしんどくない人もいるのかも知れないが、一方で思わぬ影響に苦しむこともあるだろう。

 見た目をキーワードに、色々と思いを馳せる。一番体調がつらかった時、食べる量はあからさまに減っていたのに体型は大きくなっていった。それをあげつらい嗤う人も幾らかいた。
 本態性浮腫ですね。医師にはそのように言われていたが、がんの手術をしたらあれよあれよという間に体重が5kgほど落ちた。食欲は戻ったにもかかわらず、だ。
 嗤った人たちがみなだんまりを決め込んだのを、わたしは声高に責めることなく静かに見ていた。視線こそ僅かに冷ややかだったかも知れないけれど。

 同じ目にあえば、あの人たちは恐らく同じような思いをするのだ。せめて、わたしがわからないでいてはどうする。

 治療に伴う薬剤性体重増加のある病気、浮腫を伴う病気、太ってしまう病気、痩せてしまう病気。がん以外にも色々ある。
 それに、「美醜いじり」「体型いじり」が病的なダイエットからの過食・拒食や整形依存を生むとも言われて久しい。

 ルッキズムに繋がる発言は、もうとうに時代遅れ。お互いに違いを認め合い、リスペクトできる世の中であってほしいと思う。

 セルフハンディキャッピングは、見ている側が段々いたたまれなくなったり、「またそれか」という視線に変わることがある。言われる側の人間に、言う側と同じ特徴を持つ大切な人がいないとも限らない。

 外見を武器に──それは本当に武器になっているのだろうか。そんなことを、時々考える。
 プロとして行ってきた芸人が見た目いじり脱却を次々表明する中で、もう違うものを手に入れた方がいいのではないかなと思ってみたりする。本人の自虐とは違う、良いところを見つけられる世の中であってほしいと心から思う。

 多分、これは気付いた人から楽になれるシステム。
 自虐し続けていれば、きっとどこかが軋んでいく。逆に、マウントをとらないといられないのも理想ばかり追いかけて保とうとするのも、狭い枠に自らを押し込めて辛いはず。
 いちぬけた、を出来た人から楽になる。楽になってほしいな、誰もが。
 
 

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」