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通過点#3

 病院の入り口で鳩とすれ違う朝。バサッ、と元気に飛び立つそれを見やりながら、受付へと急ぐ。ああすっかり夏だ、夏が巡ってきたのだ。
 少しだけ早いけれど、また一年が経過するらしい。日数を数えたりしないわたしでも、それとなく感慨のようなものはある。
 
 検査と診察は、至って和やかに終わった。持病が増えたことを軽やかに話したら、主治医はちょっと大袈裟にリアクションをくれた。それがいい。この人のこういうところを、とても好ましく思う。素敵な主治医だ。

 がんの全摘手術、あの日のことも少し記憶の向こうで滲んできた。DCISの術後フォローアップ、異常なし、また新しい年がここからはじまる。

 偶然に居合わせ、すれ違った待合スペースの人たちを思う。それぞれの闘病、それぞれの経過観察がそこにあったはずだ。言葉を交わさず、でも同じ場所で呼ぶ声を待つ。モニターに表示されては変わっていく数字。
 「次の方、お入りください。」
 どうか、どうか幸あらんことを。見知らぬ誰かに、あの日のわたしと今のわたしから無言で祈る。

 病院を出たら、雲が空を塗りつぶしていた。もくもくとよく膨らんだそれを見ながら、新しいワンピースを買おう、とふと思い立った。それもいい。
 

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」