そのキラキラには裏がある(かも)
超前向きな応援ソングと言えばKAN「愛は勝つ」ですよね、という話になると、そうだねなどと頷きながらついつい僅かばかり渋い顔になってしまう。身構える。ついでに一発屋なんて言葉が飛び出した日には、これはもう内心何かが渦を巻いてしまう。
オリコンシングルランキングの10位以内が4作品(注1)もあるのにそんな話になったなら、本当に一発しかなかった人は立つ瀬がない。
しかも一発の大ヒットが出せるのはほんのほんのひとつまみ、いや指にくっついた分だけ、それも数多の中からデビューに漕ぎ着けた人の中での話である。
ランキングはあくまでランキング、実のところはリリースのタイミングやタイアップの有無、プロモーション活動などにもかなり左右されるものだし、(ビジネス的には兎も角)売れたから至高で売れなかったら駄作というわけではないのだ。
話をちょっと戻そう。
前向き一辺倒のキラキラ応援ソングだと思われている「愛は勝つ」は、実は真逆のところから生まれている。
これは妄想ではなく、ご本人がかつて語ったことだ。
友人からの面倒な恋愛相談に「どう転んでも上手くいかない」と感じたところから、この歌詞の製作ははじまる。
現実なんてそんな上手くいくわけがない、だからこそ歌の中ではせめて上手くいってほしい。半ば投げやりな返事「大丈夫、愛は勝つよ」を元に書かれた歌詞が「愛は勝つ」なのだ。
つまり、スタートは反語。
そこにつまっているのは、現実無視のお気楽さではない。この曲がどのように受け止められてその心を打つのかなど全く受け手次第だが、批判的に語られる際に言われがちな「キラキラお花畑というイメージ」とは異なる背景があることは確かだ。
この曲、当初はアルバムの中の一曲だったが、シングルカットされた。ちなみにカップリング曲のタイトルはこうだ。
「それでもふられてしまう男」(注2)
・・・・・・エッジ効きすぎてないか?
いや、元々そういう部分のあるアーティストだと思う。
知っていようがいまいが楽しめるのが音楽である反面、とんでもない的外れな批判にさらされがちなのもまたその音楽、いや特にその音楽の歌詞なのだ。
かつて知性派を気取る人たちが鼻で嗤った「愛は勝つ」の記録的大ヒット。ビリー・ジョエルの名曲「Uptown girl」に影響を受けたそれが、どのように成立したかを知らずとも、音楽は浸透し残るものなのだ。
売れたら腐す、(一見)ストレートな歌詞は腐す、ましてよく知りもしないわりにジャンルごと腐すような言説や比喩をあちらこちらで見かける。
無知は別に悪くない。感覚は人それぞれだ。
ただ、誰かが好きなものや大切なものを、よく知りもしない状態で口汚く罵る品性については、ちょっとどうにもいただけないような気がする。
がっくりくるポイントは、いつもそこなのだ。
そしてそれは、別に音楽に限った話ではない。
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注1 「愛は勝つ」(1位)「イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ」(5位)「プロポーズ/恋する気持ち」(5位)「こっぱみじかい恋」(9位)いずれもオリコンチャートより。
注2 「男」と書いて「やつ」と読む。とんでもなく熱い気持ちと前向きさが・・・・・・どうなるのか、よくぞこれをC/Wにしたなという感溢れる一曲。対になるこの作品もまた、ビリー・ジョエルの影響が顕著だ。
なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」