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Sigamos dividiendo

 色々なことが一度に起きた日だった。
 徒労感、心が軋むような報せ、ささやかな追憶と痛み。少しの不安。
 でも、青く小さな窓を開けば、たくさんの喜びも満ちていた。誕生日、記念日、溢れんばかりの言祝ぎ。

 誰かが嬉しそうな顔をしているのは、喜びをともに分かち合っているのは、やっぱり好きだな。わたしはそういうものが好きだ。

 美しいものばかりじゃない。理想ばかりでもない。涙と躓きと、追えば逃げていくようなものが、この世界にはたくさんある。

 だからこそ、美しさや理想の在処を忘れずにいたい。いまは手が届かない人も、いつか手が届くことを祈っていたい。叶わないことがあれども、その他に叶うものが存在することを、祈りに似た気持ちで強く願う。

 せめてわたしとのひとときが、日溜まりのように穏やかなものであったならば。何も持たないわたしでも、たとえばあの人に心地良い椅子とクッションを用意出来ていただろうか。
 歩んだ道を振り返る。

 詮方ないことに巡らせる思考は、それでも無駄ではないことを知っている。より善くあるために、あたたかさとやわらかさを保つために、必要なことだから。

 受け取った優しさを、なくさないように。永遠になくならないパンのように、絶え間なく次に渡そう。何度でも。
 
 

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」