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歌川広重 / メトロポリタン美術館
ロスタイム
父とのロスタイムが終わろうとしている。
春先から目まぐるしく続いたできごとを消化して横浜に戻る。余命宣告、同意書、契約書…聞き馴染まない言葉の多くが日常を侵食していた。
いろんな段取りの合間に、父に食事を作ったり、お寿司を食べに出かけたり、卓球をしたり。「ありがたい、ありがたい」とニコニコしながら残された楽しみを享受し「また行こうな」と笑う。
寂しさに浸る余裕もなく、さまざまな手配や手続き、家族の日常生活の限界、コロナの激増とタイムリミットが刻一刻と迫っていて、閉まりかけ30cmのシャッターにスライディングで滑り込んだように段取りが整い、横浜に戻る時間が来た。
父を抱きしめて、生まれてから今までの分のお礼を「ありがとう」の一言に込めた。勢いは衰えたけれど、私を乗せて泳いでくれた時と同じ厚みのある大きな背中だった。
人生は不可逆で、病気は理不尽で、時間は有限で、思いは永遠で、命はリレーだということを字面では追い切れない意味をもって教わったとても濃い数ヶ月間だ。これは、生きている父からもらう最後の大きな贈り物だと思う。
どうか、残りの日々が父にとって、皆にとって、心穏やかでありますように。
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