「UNconscious BLack」第3話 週刊少年マガジン原作大賞・連載部門 応募作品
第3話
【ジレンマとこれから】
-あんな子、誰も引き取り手いませんよ。系譜見ました? 家族全員って、ねえ。異常ですよ。
-あの子は、いつか絶対、親と同じことをして、世に迷惑をかけるんだ。務所か、矯正施設にはじめから入れた方がいい。犠牲者が出る前にな。
-ねぇ、黒崎くんの親、人殺しってマジ?
-わりぃ、オレたちもう犯罪者の子どもと遊ぶなって親に言われたんだ。なんだっけ、血は争えないってやつ?
-うわっ、触らないでよ、この犯罪者!!
うるさい、うるさい、うるさい、うるさいっ!!!!
声が、声が聞こえる。止まってくれ、お願いだから。……お願いだから。
「速報です」
切羽詰まった、女性の声が響き、俺は我に帰った。
街の大型ビジョンに、臨時ニュースが流れている。
「16時5分ごろ、原宿、裏通りに店を構える喫茶店の従業員から、店がロボットの襲撃に遭っている、客が数名負傷しており、高校生の客2名が現在も店内に取り残されているとの通報がありました。現場には、酒井記者がいます。酒井さん」
「はい、酒井です。私は今、通報があったと思われる、喫茶店の前にいます。非常に奥まっている店でして、外からは、中の様子が全くわかりません。!っ、今のは銃声でしょうか。2発ほど発泡音がしました。警察は、未だ到着しない模様。狭く入り組んだ道がネックになっているもようです」
「酒井さん、くれぐれも身の安全を確保してください」
(あの、店。さっき、お茶してた……。店内に残された客、2人の高校生。嫌な予感がよぎる)
でも、俺は断ったんだ。それで、その後に襲撃を受けたとしても、それは真白さんたちの問題であって、俺とは関係がない。
俺には行く義理も資格もない。
それに、真白さんはともかくヒロ先輩は、あんなに強いパンチを撃てるんだ。まさか、やられるなんてことは。
__でも、本当にそれで良いのか?
絶対的なものがないことを一番よく知っているのは、俺自身じゃないのか。
もし、ヒロ先輩と真白さんがやられたら。
学校で、はじめて、俺自身を見てくれた、彼らを失ったら。
真白さんの瞳が、二度と俺を映すことがなかったら。
俺は、きっと、二度と自分を許せなくなる__
「っ、くそ」
俺は、全速力で、来た道を戻った。
◇
「ターゲット、ターゲット」
「なんだ? このロボット。殴っても殴っても、起き上がってくる。うおっ」
ヒロは、銃弾を近くにあった銀のトレー皿で打ち返した。
石を受けづいでから、トレーニングを重ねていた2人だが、実践ははじめてで、思うように動けず苦戦していた。
他の客は、ヒロとヒサメが、ロボットと応戦している間に、店長に連れられ、裏の通路から脱出している。
「まぁ、他の客がいなくなったのは、好都合だったなって、っつ」
「もう、ヒロにぃ、集中して」
ヒロに当たりそうだった銃弾をを、ヒサメが、ヌンチャクで華麗に捌いた。
「わりぃ、わりぃ。俺もなんかこうかっこいい武器を創造できればいいんだけど、思いつかなくて」
「ヒロにぃは、素手で十分でしょ」
「そうだな、セイっ」
ヒロは、ロボットを、正拳突きした。元空手部主将らしく、パワフルな突き。
ロボットは店の端まで吹っ飛び、壁に叩きつけられるが、依然として起き上がった。
「タタタタタタターゲット」
「ひぃっ、壊れた」
ヒロは情けない声で叫んだ。人はともかく、ロボットとの対峙は専門外だ。
いきなり動きが、俊敏になったロボットに、踏み込んでいたヒサメは、タイミングを逃し無防備な体を勢いよく攻撃された。ヒサメは弾かれて、咄嗟に受け身を取る。
「大丈夫か? ヒメ!」
ヒロは、後方に飛んだヒサメに目をやった。
その隙に、前方がピカっと光かる。
「しまった、」
__そう思った時、
がっしゃんと、音を立て、ロボットが床に叩きつけられた。
「よそ見は、命取りですよ、ヒロ先輩!」
「黒崎くん!」
「うわっ、こいつ壊れない」
俺は、暴発して黒ゴケになっても立ち上がるロボットから、トンっと後ろへ退き、距離を取った。
「黒崎くん、これっ!」
「うおっと」
ヒュンと、投げられたものを受け取る。
それは、変身指輪だった。
「でも、俺」
「一回だけでもいいから、俺たち2人じゃ無理なんだ」
ロボットのフォルムが変わり刃物が、とぶ。
俺は、すんでのところで避けた。
「っ、キスして、呪文はなんでしたっけ、」
「アニマスアウトクルージョンよ!」
「真白さん。……やるしかないか」
チュッと響くリップ音、俺は全ての恥を捨て去って叫んだ。
「アニマスアウトクルージョン!」
光り輝く光線につつまれた、次の瞬間。俺の体は真っ黒なスーツに、包帯がたなびいた。
「うおっ、すげ」
何もしなくてもわかる。体がスッゲー軽い。
これならいけるかもしれない。
俺は、足を思いっきり振り上げて、ロボットにヒットさせた。ロボットは、後方にドンっと勢いよく吹っ飛ぶ。
でもこれだけじゃ勝てない。すぐ起き上がってしまう。俺はどうすれば。
ヒロ先輩は、素手。
真白さんはヌンチャク?
「真白さん、そのヌンチャクどうやって出した?」
「創造力よ。このスーツは、着用者の想像力で、なんでも創造できるわ」
「創造力」
(ヌンチャク、ヌンチャク、ヌンチャク)
ぽんっと出現したのは、子供のおもちゃのようなプラステックの棒だった。
「想像力!」
俺は愕然とする。
「あはは、黒崎くんも俺と同じタイプか」
「そこ、集中して、きゃっ」
真白さんの悲鳴が飛ぶ。ロボットが、真白さんを床に押さえつける。
振り上げられる刀物。
「ヒメーー!」
(俺がよく見てきたもの、これだ)
「ブラック・ガン」
ドンっと鈍い音が響いた。そして、今まで動いていたロボットが嘘のように粉々になる。
「嘘だろう」
ヒロ先輩が驚いたようにロボットと俺を交互に見る。
真白さんは笑った。
「私の見込み通りだわ」
俺の手には、父親が、母親を手にかけた時の拳銃とそっくりなものが握られていた。
◇
「ふっー、なんとか、警察が来る前にヅラかれたな」
ヒロ先輩は、ハラハラしたと、困ったように眉を下げた。
「石は、大丈夫でしたか?」
「あぁ、無傷だ! これも黒崎くんのおかげかな」
「いや、俺は別に。これ返します」
指輪を差し出す俺に、ヒロ先輩は、言った。
「一緒にやろう、黒崎くん」
「でも、俺」
「噂のことだけど、俺はそんなのどうでもいい。噂の黒崎くんは知らないが、俺は目の前にいる黒崎くんを知っている。正義感が強くて優しくて、不器用な黒崎ランくんを。それで十分じゃないか?」
「先輩」
「それに」と、今まで黙っていた真白さんが言った。
「指輪の石、見てよ。もう色が変わってるでしょ? 私は青、ヒロにぃは、赤。そして、黒崎くん、あなたは黒。もうその指輪はあなたのもの」
透明だった指輪の石が、真っ黒に黒光りしている。
「それにしても、ブラック・ガンか。ふっ」
ヒロ先輩が思い出したように笑った。
「な、なんで笑うんですか」
「いや、ネーミングがあまりにもそのままで」
「技名、パッと思いつかなかったんですよ」
俺が赤面してそう言うと、真白さんがポンと俺の肩に手を置いた。
「大丈夫、私、黒崎くんの技名、もう20個は考えてるから」
「あはは、ヒメの技名はなかなかに中2だから、気をつけたほうがいいぞ、黒崎くん」
「ちょっ、黒崎くんに変なこと言わないで」
真白兄弟の口喧嘩が始まる。
日がくれ、真っ赤な夕日が、辺りを染める。
今日はなんだかいつもより、街が、人が、見える景色そこここが、温かく見える。
(俺、ここにいて良いのかな、否、もう俺は……)
「やります」
口をついて出た言葉。
それが、本当に正しい判断なのか、分からない。でも、もっと2人のそばにいたい。2人を失いたくない。
俺の言葉を聞いたヒロ先輩と真白さんは、「やったー!」と大喜びした。
胸にじんわりと広がる温かさ。
この気持ちを知ってしまった俺は、到底、独りの自分に戻ることなど、できなかった。
◇
「チッ、しくじったか」
「いやね、お姉様、逆にあんなので倒せたら、拍子抜けもいいとこですわ」
「戻るぞ、キチへ」
「ああん、私まだパフェ食べてませんのに」
都内某所、ファミリーレストラン、不穏な空気を放つ、この姉妹は一体……?
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