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彼の本当の魅了を知っている気高い女は、永遠である

彼女の彼は年下でイケメン。しかも立ち居振る舞いも優雅で、その場にいるだけで
うっとりしてしまう。

しかも彼は頭脳も明晰で、IT企業のクリエーター部門に転職。将来有望な彼から、プ
ロポーズされた彼女。誰もが羨むであろう結婚。でも彼女は、彼を振ったのです。し
かもこっぴどく。

彼女こと、Mさんの恋の顛末を聞いたのは、平成最後の夜。場所は六本木の国際文化会館のカフェレストラン。アラフィフのMさんから紹介されたアラフォー女性の取材が終わってから合流してお茶を飲み、アラフォー女性が先に帰ったので、私たちは平成最後の夜を祝ってそのままディナーへ。

Mさんはカレー、私はピラフ。アルコールで乾杯したかったけど、なぜかMさんは拒
否。その理由を知ったのは、今年になってからのことでした。

平成最後の夜のディナーでは、共通の知り合いのことを話題にしてから、「これまで
の人生で忘れられない恋」のことをかかりあうことに。

そこで分かったのは、これまでMさんをとても魅力的な女性だと思っていましたが、
想像以上でした。格段上の「男が忘れられない女」の部類の女性だったのです。

Mさんはバツイチ。別れた夫との間に、二人の子供をバリキャリで、知り合った当時
は作家のエージェント業を担っていました。その前から仕事も育児も頑張る彼女が、まさかの大恋愛!

しかも相手は29歳のヒップがつんと上を向いているダンサーだというのです。瞳がいつも潤んでいて、肩まで伸びている長髪を無造作に後ろで束ね、しなやかな動きで
舞っているというのですから、いつしか私も、思わずうっとりしてしまったのです。

彼と付き合っていた頃のMさんは、忙しくないときは、彼の稽古が終わるころに車で
迎えに行き、一人暮らしの彼をアパートに送り届けるというのです。お互いに空腹の
ときは、途中で食事をしたり、また休みの日には、彼女が運転する車でドライブ。泳
ぎに行ったり、温泉で癒されたり、旅行にいったりと、ダンサーの彼を応援しなが
ら、恋愛を満喫していたのです。

ところが、付き合ってから、2年ぐらいが経った頃でしょうか。ドライブの最中に、
突然彼がMさんにプロポーズ!

「これまで僕を支えてくれてありがとう。30歳前に、僕は決めたんだ。君を幸せにするって。だからダンサーをやめて、IT企業に転職する。クリエーター部門に採用されたから、生活の心配をさせない。だから僕と結婚して」

彼の堅実さが如実に表れるセリフでしたが、Mさんは喜ぶどころか、激怒したそうです。

「私が生活の心配をあなたに話したことがあるの?ないでしょう。あなたは生活のこ
となんか気にすることないの。だって、あなたはダンスをしているときが一番美しい
のよ。つんとしたヒップも、心身のしなやかさも、ダンスを踊っているあなただから
こそ、美しいのよ」。

そして彼女が次のように彼をこっぴどく振ったのです。

「あなたを素晴らしい男にしているのは、ダンス。それを捨てるなんて、自分の魅力
をドブに捨てたようなものよ。二度と私の前に現れないで」

彼を車から追い出たMさんは一人で帰路に就いたのです。二度と会わなかったので
す。

Mさんアラフォー過ぎ、彼が29歳。年の差15歳以上。年齢差など関係ないですね。年下の彼は、Mさんの魅力に完全にノックダウンされたのです。

ダンサーの彼は、Mさんを幸せにするのは、安定した仕事を獲得することだと考えました。

一方、Mさんは生活が不安定であっても、ダンサーとしての彼を愛し、そして応援し
たのです。「プリっと上を向いているヒップが素敵」と絶賛していましたが、それは
彼がダンサーとして、夢中で生きてきたあかし。

Mさんが彼を振ったのは、夢を捨てた男に失望したからではなく、ダンサーとして生
きるキラキラしている彼に命のきらめきを感じていたからです。命のきらめきこそ、
彼の魅力だったはず。それを捨てた彼に、Mさんは魅力を感じなくなったのでしょ
う。

人は恋する相手に何を求めているのか、ということをMさんの恋愛が如実に語ってく
れます。

彼女は結婚する、しないという以前に、彼の魅力がダンスにあることを知っていまし
た。そのため、彼がダンスを断念すると分かると、すぱっと別れを即決したのです。

その後、彼からの電話もメールも、さらに手紙もMさんは全てスルー。彼が一番輝いているダンスをやめるなら、別れるという彼女の決断は、実に潔い。潔さを通り越して、気高いと私は感じたものです。

男は気高い女性に、永遠に憧れます。そして気高い女性を、男は決して、忘れませ
ん。美しいダンサーの彼も、きっと彼女との思い出を、心に宿していることでしょう。

忘れられない女こそ、永遠。

画家のマリー・ローランサンの名言にもありますね。「死んだ女よりも、もっと哀れなのは、忘れられた女です。」


*写真の右側がMさん。平成最期のディナーです。Mさんは今年1月に永眠しました。胃がんだったそうです。合掌。


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