公園のアリ観察2023-06
私がよく行く公園をまわってアリを探し、どのくらい観察できるか試してみよう!という企画です。
地点ごとにアリを記録しておく
公園内での観察種数が増えたら嬉しい
というのを大まかな目的として、初回なので方法を考えながら歩いてみました。
2023年6月某日 7-11時
一ヶ所目(NN)
公園に到着してすぐ、少し木と落ち葉のある場所を見ました。
足元で何か跳ねたと思ったらヤマアカガエルのちびっこです。
まず目に付くのは、地面や幹を走り回っているクロヤマアリとハヤシケアリ。幹の裏側にまわると、アミメアリが行列を作っていました。
地面にしゃがむと、アズマオオズアリやアメイロアリが見つかります。
ちょっと地面をいじくったら、ヒゲナガアメイロケアリが出ました。それほど普段は見かけない種類なので当たりです。
アリを観察していると、アリに擬態した昆虫にも出会います。アリを知ってからアリ擬態の昆虫やクモを観察すると、アリに見えるけどこんな色・形・動きのアリは知らないなという印象を持つことが多いです。
上の写真はハネナシヒメバチ類かそのあたりの寄生蜂で、かなりアメイロアリに似ています。
こんな調子で観察しますが記事はさらっと進めます。一ヶ所目は10種を見つけました。
二ヶ所目(AW, AM)
公園内で最も多種のアリを観察している場所です。
公園内ではここでしか発見できていないサクラアリをささっと探します。
ここは林床性のアリを探すことができるので、それなりに時間をかけましたが今回はよくいる種を観察するに留まりました。それにしても種数は多い場所で、カドフシアリやムネボソアリ有翅女王が観察できました。
幹の地面付近にひさご型の簔を見つけました。好蟻性の蛾であるマダラマルハヒロズコガです。アリの巣やその付近に住み、餌のおこぼれなどを食べるようです。簔から幼虫の体が出ています。
三ヶ所目(RM)
クルミの木が倒れていました。クルミハムシやカミキリムシが付いており、まだ新鮮です。
樹上性のハリブトシリアゲアリも、幹から何かを取っているようで群がっていました。
おっと、クサアリ類の女王が歩いていました。同定のためにつまみ上げています。ごめんね。
腿節の黒みがあまり無く、腹柄節の形状からもクロクサアリ上種です。クロクサアリ上種のうち、本公園では体長が4mmほどで腹の伏毛が少ない種類のみ確認しています(この特徴を満たすのは2種ですが、情報不足のため同定できていません)。
クロクサアリ上種はアメイロケアリ類に一時的社会寄生することが知られています。本公園のクロクサアリ上種はヒゲナガアメイロケアリの巣を乗っ取り、女王を殺して初期コロニーを形成していると思われます。なお、ヒゲナガアメイロケアリはトビイロケアリに一時的社会寄生します。この3種は全てケアリ属に属し、同属で多重の寄生が行われるおもしろい系です。
四ヶ所目(TN)
休憩がてら寄って、アリはさらっと見ただけです。
五ヶ所目(RS)
朽ち木にアズマオオズアリやウメマツアリの巣がありました。
石の下からは本日二度目のヒゲナガアメイロケアリ。
全体的にかなり草が茂っていたため、長居しませんでした。
六カ所目(TE, TM)
落ち葉の堆積がほぼ無いため、地面をさっと見ただけです。
七ヶ所目(TW)
地面にはトビイロケアリとクロヤマアリしかいませんでした!木のそばは見ていません。
シラホシコゲチャハエトリがいました。この公園で雌を見るのは初めてです。
翌日 7-8時半
一日で全体を回るのは諦めて翌日に持ち越しました。
八ヶ所目(SaW, SaM, SaS)
暗い森で蚊が多く、やや観察しづらい道を通ります。
夜に活動的なミカドオオアリ。公園内ではムネアカオオアリとクロオオアリに次いで大きく、光沢のきれいな種です。
ヨツボシオオアリとヤマヨツボシオオアリはどちらも膨腹部に黄色の2対の点を持ちます。光沢の強いヨツボシオオアリはクサオオアリの仲間で、赤みのあるヤマヨツボシオオアリはウメマツオオアリの仲間。形態の印象はそれなりに異なります。いずれも樹上に巣を作ります。
林床に生息するテラニシハリアリは2回見つけました。今回、林床性のハリアリ亜科は本種のみでした。東北には同属でヒメハリアリが見られるはずですが、当地では見つけていません。
九ヶ所目(HN, HP)
今回は唯一の、草原性の種類が生息する場所です。この公園では見つけていないハリナガムネボソアリの発見を目指しました。
シリアゲアリ亜属は樹上性ですが、キイロシリアゲアリは草原にも生息して地下にも巣を作ります。
ハリナガムネボソアリは、一番最後の端まで来てやっといました。
結果
計29種のアリを観察しました。ハリアリ亜科、フタフシアリ亜科、ヤマアリ亜科の順に並べています。
(地点名は頭文字のみ、種名一部非表示)
キタウロコアリやヒゲナガアメイロケアリは検鏡していませんが、過去の当地で確認されている種(かつ東北で一般的な種)として当てはめました。オオハリアリはTNとSaMにて採集して同定しました。
最も多くの地点で観察されたのはトビイロケアリでした。森林や草地、平地から高地まで様々な環境に見られるアリです。トビイロケアリの見つからなかった地点は環境が合わなかったのではなく、競合するハヤシケアリのコロニーで調査範囲内が占められていたようです。
フタフシアリ亜科ではアミメアリとハリブトシリアゲアリが多くの地点で観察されました。アミメアリは女王を持たずに大型ワーカーが産卵し、巣を頻繁に引っ越すという変わったアリです。森林にも草原も見られます。
ハリブトシリアゲアリは樹上性のアリで、木のある地点に全て見られました。対して同(亜)属のテラニシシリアゲアリは一地点のみでした。
今回、観察したハヤシクロヤマアリは、本公園では初めて見るアリでした。よくいるクロヤマアリによく似たアリで、森林環境にハヤシクロヤマアリが、草原や裸地環境にクロヤマアリが生息することで分化しています。本公園の近くでも、森林環境にはよく見られる種ですが、公園内では見かけておらず、今回も観察は一匹のみでした。
※ 日本のクロヤマアリは4系統があり、当地にはヒガシクロヤマアリが分布するようです。
簡単な群集解析
14地点の在不在データになったので、地点間の類似度を見ておきます。
R の vegan (2.6-2) を用い、14地点の類似性をもとに群集構造を2次元に縮約する nMDS を実行しました。
似た種類のアリがいた地点を近くなるように表示します。地点ごとの観察種数で色をつけました。
横軸(MDS1)が最も今回の地点間の違いを表す軸で、今回は左ほど森林性の種類、右ほど草原性の種類が出ています。また、MDS1 は観察種数とも相関があったので、左のほうがより種数の多い地点という傾向があります。MDS2 は地点の緯度方向を分けているように見えつつよくわかりません。
私がよく行く公園をまわり、どのくらいのアリが観察できるか試してみました。今回だけで29種を記録できたのは良かったです。東北には90種ほどのアリが生息すると思われるので、そのおよそ3分の1を一つの公園から2日で観察したことになります。
方法を現場で決めながらも、順調に観察を進めることができました。
同様の観察をできれば数回やりたいと思います。
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