トイレ

半年に1度くらい悪夢をみる。

わしの悪夢はパターンが決まっていて、
1度見た夢の舞台が何度も何度も出てくる。

今回は廃墟が舞台だった。

建物はおそらくホテルで、
ボイラー部分には長い梯子と
どこまでも続く鉄板の橋
その向こうには影のような幽霊。
なぜか差し込む月明かりを背に梯子を登ると、
流し台とトイレ。
誰かのアパートの一室のような
仕切りのないロフトにトイレ。

座って用を足すと、
後ろの梯子から只ならぬ恐怖を感じる。
急いで立ち上がる。
流しには、普段使っているピンクの片手鍋。
怖くて梯子に足が向かない。
意を決して梯子を下りる。
誰かとすれ違う。見てはいけない。
灯りだ。
ここは、じいちゃんの家。
ほっとした。
今日はお客さんがいるらしい。
が、ほっとしたのも束の間

そうだ、ゾンビがくる。
思い出した。
ゾンビがくるのだ。

母や父、弟の様子を伺う。
自分のするべきことがわからない。
どこに逃げよう。
そんな相談をする間も無く、
刻一刻と時間が迫る。

トイレに行きたい。

そう思ったらまた、あの梯子。

ひゅおおぉぉと、遠くから風とも人の声とも
聞きとれるような音がする。

梯子を登る。
後ろから人。

カン、カン、カン、カン
  (カン、カン、カン、カン、)

追いかけてくる。
流しが見えた。トイレ

急いで用を足す。
誰かが後ろから見ているような気がして、
目の前を見つめる。

立ち上がる。こわい

右にはトイレがさらに2つ。
その先のコンクリートが冷たく見返す。

恐る恐る振り返ると、
梯子の降り口に赤茶色の人。

聞こえていた風鳴りの原因はこれかと
思ったときには
スッと目の前に詰めてきた赤茶色の顔面を
凝視していた。

あ………

目が覚めた。
心臓が早い。
状況を確認する。
あれは夢。大丈夫。こわくない。
犬の寝息がきこえる。
その呑気な音にいくらか安心する。
携帯を点けると深夜2時。
この時間に目が覚めるのはいつものことだ。こわくない。
昔は丑三つ時に恐怖を感じていたが、
自分の勘が鋭くなるにつれて
そういうものだとどこか受け入れた
ような気がしている。
しかし深夜は眠い。
眠いけど、あの夢のあとでぐーぐー寝息を
立てられるほど肝が据わっていない。

仕方なく、寒い室内に飛び出し
トイレに立つ。
廊下のない家だが、先ほどの夢が尾を引き
なんだかこわい。

電気を点ける。

トイレと目が合う。

夢の中のトイレとは違い、
どこか寝ぼけたようなトイレ。

深夜に失礼

と、座った途端に、走る冷感。

あっ…省エネモード…

トイレとわしの間に、気まずい空気が流れる。

そうか、いつも温めてくれていたのか。

なんて深夜に気づいた。

_φ(・_・

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