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そして母は心のなかに名刑事を飼う

仕事で気を張る日々が続いていた。そんななかで、保育園から連れ帰ったばかりの2歳の息子にうどんを茹で、具材を加えて味付けをし、夕飯としてそれを与えていた。

順調に食べていたのも束の間、息子は急に手づかみでうどんを揉み始め、盛大に遊びはじめた。それはもう夢中で、目は輝いてさえいた。

短くカットしたうどんは粘着性を保ったまま床の上に散乱し、ジョイントマットの接合部にまで侵食をし始め、思わずカッと顔が熱くなった。おいおいマジかーい!

その後、オモチャ認定したのか、かなり粘っても息子はうどんを食べてはくれなかった。“食べ物で遊ぶ時期”は以前にもあったものの、ここ数ヶ月はおさまっていたため成長したのだと油断していた。

「食べ物で遊ぶのはダメなんだよ」と根気よく伝え続けていて、それがしっかりと伝わっていたのだとばかり、思っていた。

が、全然伝わっとらーん!!

あのね、母ちゃん、いつも以上に、疲れてんのよ。そうゾンビのような顔で話しかける。しかし2歳になりたての彼は話せる単語も限られており、ケラケラと鈴のような音色で、笑うばかりだ。か、かわいい、んだけどさ…

仕方なくフルーツを与えて、絶望的な心持ちで床の処理をしていたら、ちょうど妹からたわいも無い電話があり、一連の出来事を笑い話として話せたので、シリアスなムードにならずに済んだ。けど、気持ち的には結構キツかった。

その夜。

寝かしつけを終えて、保育園の先生からの連絡帳を確認していた。

すると、今日は手のひらに絵の具を塗って紙にぺたぺたとスタンプをして遊んだのだと記されていた。

絵の具を塗った手のひらを、嬉しそうに何度も先生に見せたのだそうだ。楽しそうな息子を想像して、思わず微笑んだ、その刹那。

特定の文字が、連絡帳から浮かび上がるようにして脳内に迫ってくるではないか。


手のひら、感触、絵の具あそび…??


-なんということだろう-


まるで星々が星座として繋がっていくかのように、脳内で一つの推測が導き出される。


急いで園から渡された制作物をみると、やはり小さな手のひらの形のスタンプに使われた絵の具は、白・黄色・緑の3色であった。

そして。件の、晩御飯のうどんの具材が、

うどん(白)卵(黄色)ほうれん草(緑)だったのだ…!

もうお分かりいただけるだろうか?


息子は、よほど今日のスタンプ遊びが楽しかったのだろう。同じような風合いのうどんをみて、それを彷彿としてしまった。そして、その楽しさを再現しようとしたのだ。

私は、事件を解決に導いたデカのごとく眉間を揉み、頭上からスポットライトで照らされているような心持ちになった。

計画的な犯行というより…星は衝動に駆られていた…。

そして推測される動機が衝動的すぎて、正直、むちゃくちゃ、かわいい。うん、脳がとても刺激されたんやね。

…それにしても子育てって…本当に意図せずこちら側のクリエイティブ性を試してくるんだから…油断も隙もあったものではない。

好奇心とやってはいけないことの境目があやふやなのが、子どもというものだ。

まして、新鮮な遊びを体験したあとは、なおさら追体験したくなるものなのだろう。私もいちおう元子供なので、すごく腑に落ちてしまった。

我が家では、食べ物で遊ぶことはやはり控えていきたいと考えている。だから引き続き、彼の理解できる範囲で説明しながら、少しずつやめるように説得していく所存。

だが、それでも。

まだ多くを話せない彼の、心の中を読み解けたようで。デカは、いや、母ちゃんは心なしか、嬉しかったのであった。

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