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ヘアドネーション。

妻がやりきった。

妻が、髪を伸ばしていた。


「早くきりたい…」


そのセリフを、今日まで、
もう何度聞いたことか分からない。

ただでさえ毛量が多い妻は、
ただでさえハゲ上がりが進んでお風呂上がりのヘアドライも1分で終わるような毛量の夫の心を知ってか知らずか、
「もう〜いつまでも乾かない!」と長い髪を鬱陶しそうに愚痴をこぼしていた。

ボクは涙をこぼしそうになるのを堪えつつ、ハゲまし…いや、励ました。

床には常に長い髪が落ちまくるものだから、「やたら髪が落ちる!掃除機をかけたい!」と面倒臭そうに何度もぼやいていた。

ハゲ散らかしてるボクもなんとなく掃除機をかけた方が良いかなとソワソワする日が増えた。

「もういいかな」
「まだかな」
「まだだよねー」
「何センチかな?」
「測って!!」

昨年の秋頃からは、
もう限界とばかりに、
「長さを測ってくれ」と頼む回数も増えた。
本当に辛そうだった。

お風呂場の排水溝がハイペースで詰まるので排水ネットを交換する回数も増えた。
ほぼ海藻だった。

去りゆく髪の毛への哀愁を知る者として、髪の恩恵とはなんたるかを彼女に伝えるべきか否か、迷う日もないでは無かったが、今考えても野暮な話だったと思うので、言わなくて本当に良かった。

11月くらいからは、いつ髪を切りに行こうかなという話も出始めた。

「Xデーを決めて予約しといたら?」

カウントダウン的になると残りの日々も耐えられるんじゃない?とアドバイスしたり、髪を切る日までの残りの時間をなんとか楽しく過ごして貰えるように頑張ったつもりだ。

ただ、うんうん言いながらも、彼女が予約することはなかった。
いいんだよ、ただなんか、そういうとこあるよね。

そうして彼女は耐えに耐え、
髪を伸ばし続けた。


目的は、ヘアドネーション(髪の毛の寄付)だ。

※ヘアドネーションとは髪の寄付の事で、抗がん剤の副作用やその他の理由で髪を失ってしまった方などの為の「医療用ウィッグ」の作製に使われます。31cm以上の長さが必要だったりします。


普段はヘアメイクやカラーにほぼ興味を示さない彼女だけど、髪を切ってどんな髪型にしようか、インナーカラーを入れみようかな、何色にしようかな、と切った後の事について珍しく楽しそうに話したりもした。

そして今日、遂に彼女はやり遂げた。
長い髪を、バッサリ切り落とした。


ニュー。

シン・妻。

新妻だ。やったー。違いますか。


明日からは、床に落ちた長い髪の毛も、排水ネットの交換頻度も、ドライヤーを使う時間も、掃除機の頻度も、色々と減る事でしょう。

そして彼女の髪の毛も軽くなり、髪の色も明るくなり、心も軽くなる事でしょう。

よくやりきったね、前から言ってるけど短い髪型も似合ってるよ。
長い間、本当にお疲れ様でした。

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過去のボクは昭和の固定観念や慣習に縛られ、自分や家族を苦しめていた事に気付きました。今は、同じ想いや苦しみを感じる人が少しでも減るように、拙い言葉ではありますが微力ながら、経験を通じた想いを社会に伝えていけたらと思っていますので、応援して頂けましたら嬉しいです。