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あおいちゃんの人生5

泣きじゃくるあおいちゃんを後部座席に乗せて、
お母さんの運転する車は、来た道を引き返しました。
くすんくすん、と鼻をすすりながら、車の窓から見える海を眺めていたあおいちゃんは、泣き疲れて、そのまま眠ってしまいました。

お母さんは、もともと住んでいたお父さんとの家から荷物を持ち出すため、お父さんがいない時間を見計らってこれまでの家に向かいました。

お姉ちゃんはあおいちゃんより4才年上でした。
なので、お姉ちゃんにはお母さんの気持ちが分かっていました。
お父さんとはもう一緒に住めないこと、お母さんは人生を終わらせようとしていること。
私とあおいを残すのが不憫で、一緒に連れて行こうとしていること。

お姉ちゃんは、お母さんのことが大好きだったので、自分の気持ちをはっきりと言えませんでした。
ただ、お母さんが次にいつ、また死ぬ決断をするのかがわからず、怖くてたまりませんでした。

海を出発して、これまでのお家に着いた時、お母さんはあおいちゃんとお姉ちゃんを車に残して、家の中から荷物をそっと持ち出しました。
そして出発しようとしたその時、道の向こう側に車のヘッドライトが見えました。

お母さんには、それがお父さんの車だとすぐにわかり、急いで車に乗り込み、エンジンをかけます。
勢いよく閉まったドアの音に、あおいちゃんが目を覚ましました。
長い時間眠っていたせいで、自分がどこにいるのか理解できませんでしたが、お母さんはあおいちゃんが起きたことに気づくことなく、急いで車を発進させました。

車通りの少ない、田舎のまっすぐな夜道をすごいスピードで走るお母さんの車。
その車の後ろをずっとついてくる車の明かりに、あおいちゃんは気づきます。

後部座席から後ろを振り向くと、お父さんがハンドルを握っている姿が見えました。

「あっ、お父さんだ!」

あおいちゃんはお父さんが大好きだったので、思わず声が漏れましたが、久しぶりに見たお父さんの顔は、少し怖くて、怒っているようです。

「お父さんが後ろにいるよ!」

お母さんとお姉ちゃんに教えるあおいちゃん。でも二人とも後ろを振り向くことなく、一言も話しません。
お姉ちゃんは両手をぐっと握りしめて、震えています。

あおいちゃんがお姉ちゃんのそんな様子を見ていると、後ろを走っていた車の明かりが一気に近づいて、お母さんの車を追い越し、キーッと急ブレーキをかけたのです。

お母さんの荒い呼吸の音がします。お姉ちゃんは震えたままです。

前に停まった車のドアが開き、お父さんがこちらに向かって歩いてきます。
お父さんも震えているように見えます。

あおいちゃんは、今目の前で起こっているこの出来事が理解できませんでしたが、体中にゾワゾワとした感覚が生まれました。

そしてお父さんが、お母さんの車に近づいた時、お父さんが手に持っているものを見て、「怖い」という感覚があおいちゃんの全身を貫きました。


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