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アイドルキャバ嬢と敏腕マネージャー

YOASOBIの「アイドル」を聴いていたら、キャバ嬢時代のことを思い出したので書いてみます。

※当時と現在ではキャバクラの時給やシステムにかなり違いがあります。
あくまでも「その頃の話」なのでご了承ください。


運命のマネージャーとの出会い

若い頃、私にはどうしても叶えたい夢があった。

夜の仕事でナンバーワンになりたい。

そう思って銀座に就職したが、私ごときの容姿では到底太刀打ちできないことを知って挫折した。
でも諦めきれない。

私でもナンバーワンになれる場所を探して、とある繁華街にある中規模程度のキャバクラへ面接に行ったのだ。
用紙に記入した「週4日勤務希望」という箇所をじっと見つめてから、担当者の男性は顔を上げてこう言った。

「週6日入れませんか?そうすれば僕があなたを3ヶ月でナンバーワンにします

人生の中でこれほど痺れた言葉は無い。
私は鳥肌を立てながら、週6日入ることを約束した。
男性は改めて名刺を差し出す。

「星野です。よろしくお願いします」

この日から私はマネージャーの星野くんと共にナンバーワンへの道を歩み始めた。



プロデュース

初日。
星野くんは私になるべく色々なタイプの男性の席へ着かせた。
おそらく私の対応を観察したかったのだろう。

営業終了後、「作戦会議をしましょう」と近所の居酒屋へ連れて行かれた。
そこで彼は突拍子も無いことを言い出す。

「凛さんにはアイドルの素質があります。アイドル路線でいきましょう

キャバクラなのにアイドル…?
意味が分からない。

彼の話を要約するとこうだ。

キャバクラではセクシーさを売りにすることが多いが、凛さんは童顔だし貧乳だからそれは無理。
でも華があるから「カワイイ」を全面に出せば需要はあるし、店の顔になれる。

結構ズバズバ言われた気がするが、確かに私は当時「かわいいね」と言われることはあっても「美人だね」と言われたことは一度も無かった。
人から初めて「美人ですね」と言われたのは30歳を過ぎてからだ。

こうして私はアイドルキャバ嬢という謎の存在として店へ出ることに。



デビュー

星野くんとの作戦会議で、いくつかルールを決めた。

ドレスはカワイイ系のミニスカで、髪は毛先を巻く程度にし、黒色。
一人称は「凛」で、ぶりっ子キャラ。
ただし清楚すぎるとキャバクラでは売れないので、酒もタバコもOK、下ネタにも適度に乗る。

「凛ちゃんはウンコするの?」
「え〜!凛はウンコなんかしないよぉ〜♡」

アホすぎるキャラ。
しかしこれがハネた。

星野くんはオタク気質なサラリーマンや大人し目のお客様の席に次々と私を着かせる。
すると高確率で場内指名が入り、日毎に常連のお客様が増えていった。

そして3ヶ月後。
店のバックルームに貼り出された「ランキング」で、私はナンバーワンになった
本当になってしまった。

けれどもこれは私だけの力では無い。
星野くんの献身的なバックアップがあってこそ成し得たのだ。



人の心を動かす力

出勤日は毎夕、星野くんからメールが来る。

「おはようございます。本日は杉内様との同伴出勤です。田井中様という方からナンバーワンへの出勤確認がありました。新しい名刺が届きましたのでご確認お願いします」

店へ出勤してロッカーを開けると、私の吸うマルメラが1箱必ず置いてある。
一緒にチョコレートやクッキーが置いてあったり、体調が悪い時は葛根湯と栄養ドリンク。

まだナンバーワンになりたての頃、私のドレスがハサミでボロボロに切り刻まれていた時があった。
おそらく私がナンバーワンなことを気に食わなかった嬢の仕業だろう。

動揺しながら星野くんに報告すると「すぐ用意します!」と言って彼は近所のドレスショップへ走り、替えのドレスを買ってきてくれた。
さらには後日犯人を特定し、解雇したのだ。

スタッフが嬢の買い物に出ることは日常茶飯事だが、通常はボーイに任せる。
しかし星野くんは必ず自分で買いに行った。

おそらく彼は、どのような行動が人の心を動かすかを知っていたのだ。
少なくとも私は感動した。



誠意への恩返し

ある時、酔ったお客様が手を滑らせ、赤ワインを私の胸元にぶちまけた。
星野くんはすぐさまドレスショップと下着屋をハシゴし、10分で新しい着替えを届けてくれたのだ。

彼と寝たことは一度も無いのに、私のブラサイズから足のサイズまで完璧に把握していた。
芸能界に居たことは無いけれど、多分彼は本物のマネージャーなのだ。

月に一度、アフターが無い日に星野くんと「定例会議」をする。
近所の居酒屋でお腹を満たしながら、売り上げ推移・今月の数値予測・イベントの集客状況などを話し合う。

帰りには必ず「タクシー代」として1万円渡してくれた。
私がナンバーワンになってからも、月の収入が7桁になってからも、それは変わらなかったのだ。
そういう律儀なところを好いていた。

キャバクラには「色恋管理」というものがあり、マネージャーは担当の嬢と寝ることが許可されているのだが、私は彼とそうした関係にならなかった。
何故なら星野くんは相棒だから

彼は酔うと「僕たちは凛さんに食わせてもらってますから」とたまに言っていた。
半分冗談で、半分真実だ。
店の売り上げの半分以上を私が稼ぎ出していたのだから。

でもそれは、星野くんのおかげだ。
彼が誠意を持って接してくれたから、私は頑張れた。

星野くんとのエピソードやキャバ嬢時代の話は色々あるのですが、今回はここまで。
また機会があれば書きます。


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