定年退職した男はなぜ蕎麦を打ちたがるのか
老後の趣味というとみなさんはどんな物を思い浮かべるだろうか?
旅行やガーデニング、ヨガやゴルフなどが人気のようだが、昔から一定数の男性がハマる定年後の趣味が「蕎麦打ち」だ。
女性で蕎麦打ちが趣味だという人の話はあまり聞かない。
一体蕎麦の何が男性を惹きつけるのか。
「人生の楽園」の蕎麦屋率の高さは異常
テレビ朝日で毎週土曜18時から放送している「人生の楽園」という番組がある。
私が夕飯を作っている間に夫がなんとなく見ていることが多かった。
定年や早期退職を機に田舎に移住してきた人にフォーカスし、その穏やかな暮らしぶりを紹介している。
地域密着型の店を出し、夫婦2人で切り盛りしているのがお決まりのパターン。
カフェやパン屋、お弁当屋さんなどそのジャンルは様々だが、特に多いのが蕎麦屋だ。
私の体感では5回に1回は「蕎麦を打つ旦那・接客担当の奥さん」という構図だ。
いや実際にはそんな頻度ではないのだが、定番感がありすぎて「また蕎麦屋開店してる!」と思ってしまう。
そこまで蕎麦の需要あるのか?
果たして経営は成り立つのか?
と気になるところだが、調べてみるともちろん大抵失敗していた。
蕎麦打ちは過酷な仕事
蕎麦というのは原材料が決まっている上に作り方も単純だ。
最初は力の入れ方やコツを掴むまでが大変だが、何度も作っている内に慣れる。
つまり才能や特別な技術は必要ないので、2・3年でプロレベルに達する人もいるのだ。
そうして60代にして意気揚々と蕎麦屋を開店するとどうなるか。
腱鞘炎が原因で閉店するのだ。
若い頃から蕎麦打ちに必要な筋肉を鍛えてきた職人ならいざ知らず、管理職をしてきた人の身体はすぐに悲鳴をあげる。
1日100食も打つような体力などあるはずがないのだ。
販売数を限定すれば続けられるかもしれないが、そうなると今度は利益が出ない。
現役時から飲食店経営に関わっていた人ならアイデアや工夫で軌道に乗るかもしれないが、飲食業は一番難しいビジネスモデルとも言われている。
開店3年以内の廃業率は70%、5年で80%以上だ。
田舎の蕎麦屋も渋谷の高級焼肉店も、成功するほうが稀だと言える。
では、あくまでも趣味の範囲でならどうだろう。
趣味・蕎麦打ちは家族に迷惑?
趣味の範囲で蕎麦を打つ。
これなら材料費や道具代だけで済むし、一見良い趣味に思える。
しかし蕎麦打ちを趣味にする男には、共通した特徴があることに私は気付いた。
承認欲求だ。
蕎麦打ち教室などに通っていたお父さんが、ついに自宅で蕎麦を打ち、初めて出来たてを家族に振る舞う日。
奥様も子供たちも「美味しい!」「お父さんすごいね!」と言ってくれるだろう。
彼は自尊心を満たされ、蕎麦作り=幸福の公式が出来上がる。
すると翌日も、その翌日も、彼は蕎麦を打ち続けるのだ。
週に1回蕎麦を打つ、という頻度なら家族も「今日はお父さんの蕎麦デー」などと楽しんでくれるだろう。
けど毎日はキツイ。
やがて家族は蕎麦に飽き始める。
手作りの出来たてが美味しいとはいえ、蕎麦は毎日食べるものではない。
しかし「飽きた」などと言えば烈火のごとく怒り出すだろう。
俺が丹精込めて作った蕎麦が食えないと言うのか、などと。
そうして妻は思う。
蕎麦打ちじゃなくて家庭料理を趣味にしてくれたら良かったのに、と。
蕎麦道を極める
今回「なぜ男は蕎麦を打ちたがるのか」についてリサーチしてみたところ、色々な意見が見つかった。
中でも「蕎麦道」という言葉が印象に残る。
剣道や書道といった、いわゆるひとつの道を極める系に属しているのではないかという発想で、これは確かに頷けるものがあった。
蕎麦打ちというのは「蕎麦」という、たった一種類の料理に向き合う作業だ。
美味しさへの追求はもちろんだが、そこには黙々と同じことを丹念に繰り返す修行的な一面も見て取れる。
男性はひとつのことを極めたがる傾向が強い。
そこで蕎麦に「道」を感じるのかもしれない。
ここまで読んで頂いた方の中には「蕎麦打ちが趣味で何が悪い!」とお怒りの方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん悪くないです。
ただ、食品を扱う趣味というのは最終的に誰かに食べてもらわなければならない。
自分ひとりが食べるために打つのなら良いでしょう。
しかし誰かに感想を求めたり「喜んでもらいたい」という気持ちが生まれるのはごく自然なこと。
そしてその行為がひとりよがりになってしまうことも多くあるわけで。
蕎麦だけにこだわらなくていい
リサーチする中で私が至った最終結論を発表します。
男性が蕎麦打ちにハマるのは、なんかカッコいいからだ。
職人気質の頑固親父はカッコいい。
ひとつのことに打ち込む姿はカッコいい。
でもその称賛を人に無理矢理強要するのはカッコ悪い。
だから、できれば蕎麦だけに承認欲求を背負わせないでほしいのだ。
例えばカレーや肉じゃが、酢豚など、普通の家庭料理にも挑戦してみてはいかがだろう。
毎日違う料理が出てきたほうがご家族も心から喜んでくれるし、忌憚のない意見によって「次はこんな物を作ってみよう」という発展性もある。
良いことづくしだ。
近い将来、夫が「蕎麦打ちをやりたい」と言い出したらどうしようと今から戦々恐々としています。
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