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アンナミラーズという大奥

私の青春であったアンミラが、ついに先月の8月31日で閉店となった。

上記記事のリョウコさんは、私もヘルプで高輪店に行った際に一緒に働く機会があった伝説の人だ。

アンミラはカワイイ女の子が元気に働くお店ではあったのだが、実態は超体育会系
今回はその頃のエピソードをお話しようと思う。

アンミラの概要については以前の記事をご参照ください。



先輩には絶対服従

令和の現代では考えられないことだが、私が勤務していた時代は暴力制裁が横行していた

オーダーミスをすればトレー(お盆)で脇腹を殴られる。
「テーブルの拭きが甘かった」という理由でダスター(雑巾)を顔面に投げつけられる。

プライベートで仲の良い先輩に対して、軽口を利いてしまった時もそうだった。

「凛、さっき出したエスプレの砂糖どこだっけ?」
「ここだよー」
「え、なにタメ口聞いてんの」

ビンタされた。
普通に頬を平手で叩かれた。

もちろんかなり昔の話ではあるので、ここ数年はそんなことはしていないだろう。
が、アンミラの上下関係はガチで厳しいのだ。



年齢は関係ない

通常の飲食店においては、勤務年数に関わらず年上の人に対しては一定の礼儀を払うものだ。
しかしアンミラは違う。

勤務年数が長い人=目上の人なのだ。

つまり「高校生の頃から働いている勤務歴3年の大学1年生」に対して、「新人で入ってきた大学3年生」は敬語を使わなくてはならない。
これは鉄の掟だ。

私は10代でアンミラに入ったので、最初は周りが年上の人ばかりだった。
おかげで全員に敬語で接していれば問題なかったのだが、勤務して1年程経った頃に、25歳の元OL・Y子さんが新人として入ってきたのだ。

私はY子さんに対して「年上だから」という理由で敬語を使っていた。
これが嵐を呼ぶことになる。



年上にタメ口を利く恐怖

私が「Y子さん」と、「さん付け」で呼んでいることを知った先輩から、ある日呼び出された。

「凛さ、なんでY子のこと『Y子さん』って呼んでんの?」
「あの、年上の方なので…」
「は? あのさ、あんたは先輩なんだから呼び捨てにしなきゃダメでしょ。そうじゃないとY子がつけ上がるから」

これは一般社会に通用しないルールではあるのだが、アンミラはとにかく上下関係や序列に厳しい場所だった。

「下に対して示しがつかない」という理由で、私はY子さんを「Y子」と呼び捨てにすることを命じられた。
これがどれだけ重荷だったか分かって頂けるだろうか。

当時10代の私にとって、25歳は完全に大人だった。
人生経験も絶対に上なはずの人を呼び捨てにしなければならない恐怖。

先輩の命令だったので、私は頑張って彼女を呼び捨てにしたのだ。
その時のY子さんの私を見る目は、とても冷ややかだった。
何故こんな小娘に呼び捨てにされて仕事を指示されなければならないのか、という目。

でも私は思った。
そう思うならどうか私を追い抜いて、と。

実はアンミラは、勤務年数以上に実力主義の職場だったからだ。



仕事が出来る人間が正義

アンミラには階級がある。

新人はNFニューフェイス
そこから「オーダーを取れる」「会計ができる」などの仕事量により8クラス程に階級が分かれていて、これは勤務年数に関係なく評価され、昇級の度に時給も上がるシステムとなっていた。

基本的には勤務年数=階級となって昇級していくのだが、やはり仕事が出来ない子は取り残されていき、逆に適応力のある子はどんどん昇級していくのだ。

私は標準的なスピードで昇進していき、いつしか頂点の「リーダー」に次ぐ「サブリーダー」の位置にいた。
当時の時給は1400円で、もしリーダーとなれば1600円。

フリーターだった私は貪欲にリーダーを狙っていたのだが、ここで同じくサブリーダーの位置にいたM美さんから喧嘩を売られたのだ。



売られた喧嘩は買う

「次のリーダーは凛かM美」という空気が漂っていた頃のこと。
仕事を終えてロッカールームに行くと、私の靴が無かった。

過去、私は小学生の頃から靴隠しという下らない制裁を女子から受け続けている。
思った通り、私の靴はゴミ箱に捨てられていたのだ。

対処法は万全に整えていたので、私はM美さんの上がり時間をロッカーで待ち続けた。

タイマンだ。

文句あるなら拳で勝負しろや。
叩きのめしてやんよ。

とっくに泣きながら帰ったと思っていた私が待ち受けていたことにより、M美さんは動揺していた。

「M美さん、私に文句があるならこんな小学生みたいなことしないで、直接言ってくれませんか?」
「え、え…?」

目が泳ぐ彼女の両肩を掴んで私は言った。

「今から私を殴って下さい。そしたらその2倍の強さで殴ります。M美さんは更にその2倍の強さで殴ってくれていいんで。お互いに意識無くなるまで殴り合いましょうよ」

これは私の生まれ育った下町ではポピュラーな喧嘩口上なのだが、彼女はすぐに戦意喪失してしゃがみこんでしまった。

殴り合う度胸も無いくせに靴なんか隠してんじゃーねーよクソが。



アンミラという秩序

色々あったが私は無事にリーダーとなり、かけがえのない経験をさせて頂いた。
ゆるやかにではあるが、上下関係もある程度撤廃したので、かなりフレンドリーな職場になったと思う。

けれどもあの厳しさがあったからこそのアンナミラーズ、という思いもやはり捨てきれなかった。

私はあまり良い上司ではなかったと思うけれど、「凛さんみたいなリーダーになりたいです」と言ってくれた子たちのことは今も忘れない。

厳しさと秩序があったからこそのアンナミラーズ、と思いたいのだ。


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