【小説】 闘病日記3日目

「こんにちはーヤマト運輸です」

インターホンの音で目が覚めて、モニター越しの声で頭が起きた。時刻は11時を過ぎた頃だった。

ドアを開けて荷物を受け取りたいが、受け取れないのでそのまま置き配をインターホン越しにお願いし、モニター越しにタタタと走っていく音が遠ざかるのを聴く。マスクをして念の為手も足もあちこち消毒してからドアを開け、荷物を入れようと屈んで持ってみた時の重さに驚いた。

え?こんなに重いの?

たかが2箱くらい、いつもなら軽々持ち上げていたのに持ち上がらなかった。一体何が入っているのだろうと思いながらも、持ち上がらないことに観念して引きずるように引っ張る。家との外との境目にあるこの小さな段差を、これほど意識した日はない。これほど邪魔だと思った日も、きっとない。ガタガタと音を立てる傘立てを「邪魔!」と振り払って漸く玄関に荷物を置くと、一息ついた。

「はぁー...」

朝起きて今日の体力全て使い果たした気がした。測っていなかった熱を体温計で測ると37.5度。まだ微熱が下がらない。それどころか、熱が上がってそう。

「こんなに体力なくなるなんてねー」

そんな独り言を呟いて、私はどさっとベットへ倒れ込む。もう何もしたくない。それでも、何か飲みたい。うじうじ携帯をいじりながらも身体の欲求には勝てず、私はそのまま起き上がってコップに水を注いで一気飲みした。水分が枯れた身体中を駆け巡るような感覚に襲われる。あまりに美味しくて何度もコップに注いでは口に運んだ。これだけで生きている気がした。


水分によって体が蘇生されたことにより、忘れていたかのように空腹が頭を擡げる。さっき積み上げた段ボールを開けてみるかと、ハサミに手をかけてザクザク開けてみた。中から出てきたものは某栄養ドリンクのモンスターだ。これって徹夜する時に飲むものでは?と疑問に思いながらも、まあエナジードリンクだから弱った身体にはいいのかもしれない?なんてことを考えながら1本ずつ箱の外へ出していく。下の方にはレンジで温めるだけのご飯やお湯を差すだけのカップ麺、レトルトルーもあって豊富だった。流石に野菜やウィダーのようなドリンクはなかったけれど、空腹を満たすものは幸いにもありそうだ。これなら1週間以上生きていける。たとえ外に出られなくても。そう、思っていた。


******

1週間経つと、段ボールの中身の食事もある程度残り物が目立つようになった。最初こそ感謝の気持ちでいっぱいだった食糧たちも、何日も食べることになると飽きてくる。いい加減野菜や果物が食べたい。そう思わずにはいられない。それでも、外へは出られなかった。自宅待機の期間は長い。

私はいつになったら外へ出られるのだろうかーなんて自分をカゴの中の鳥のように振る舞うことも、そろそろ飽きてくる。電話越しに聴く友人の声も、両親の声も、少し機械音が混じった電子音に過ぎず、これらが私の日常になりつつあるのが、いささか不安でもあった。「人間、慣れるのは早い」というが、私には慣れなかった。彼らと直接会って話した時の表情や言葉のニュアンスは、対面でしか得られない情報だったので、その情報全てが恋しかった。

あと5日もすれば外へ出られる。あと4日、3日。そうやって指折り数えては解放の時を待つ。その瞬間まで、家でのんびりとやりたいことを消化する楽しさを堪能したのだった。

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