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空目した空似

その人を見かけたのは、丁度終電間近のことだった

終電が近いこともあり、足早に乗り継ぎ電車のホームへ向かっていた私は、

何とか電車が来る前にホームに辿り着くことが出来た

ほっと一息ついて、ホームでまばらに立つ人影を見ると

その中に思わず声をかけたくなるくらい、佇まいだとか振る舞いだとかそっくりの他人の空似を見かけました

彼女があまりにもそっくりだったので、名前を呼ぼうと、喉の奥から声を絞り出そうとしたけれど、驚きのあまり声が出なかった

人は驚くと言葉を失うみたい

結局声をかけることはせず、黙って空似さんがいる列とは別の電車を待つ列に並んだ

電車を待ちながら、向こうに立っていた空似さんは本人じゃないと言い聞かせる

(だって本人は…)

でも、もしかしたら

生きて、どこかにいて、ひょっこり振り返って私の名前を呼んでくれるのかも知れない

そんな淡い期待が込み上げてもきたけれど、夢想しても現実は変わらないから、そっと仕舞い込んだ

やがて、電車がやってきて、開いたホームドアから乗り込んだ瞬間、過去の記憶がブワッと頭に降ってきた

あの日はアイス食べながら散歩したなとか、居酒屋でハイボールばっか飲んでいたなとか、授業のこと、恋のこと、相談したり愚痴ったり、笑ったり泣いたりしたこと全てを。

電車に揺られながら、友人と一緒に過ごした記憶を思い返し、これからも消すことなく一緒に生き続けようと思った








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