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活きる盆栽

少し前まで、レース糸で編まれた花を飾っていた。本物そっくりに染色されたもので、見ているだけでうきうきとするくらい春を感じた。その前は枯れた花を飾っていた。スワッグと呼ばれるドライフラワーで、壁から吊るすとそれらしくオシャレに見える代物だ。壁に飾ること自体初めてだったので新鮮だった。スワッグの前はハーバリウムと呼ばれる置物を置いていた。後輩からもらったもので、透明なガラスに入った色彩豊かな花がリモートの荒んだ心に彩りを添えた。

そんな数々の素材で出来た花を飾ってきたが、ある日飽きてしまった。彼らは生きているように見せられたものであって、生きていると感じることが出来なかったからだと思う。

何となく自然とふれあう機会も減ってしまい、季節感を感じづらくなったと痛感していた時、ずっと前から欲しいと目をつけていたサイトの盆栽に心が動き出した。そのサイトの盆栽はさまざまな種類を出しており、全て1点ものだった。なので、気にかけていた盆栽がまだ残っているだけで少し嬉しかったし買うか悩み出してしまった。そして結局、購入してみた。


「盆栽」と聞くと、きっと誰しも思い浮かべるのは「おじさんの趣味」だろう。

「古臭い」「枯れてる」「何が面白いのかわからない」

そんな囁きが聞こえてきそうな領域に、ふと興味が湧いてしまった。

「盆栽」ってマイナスなイメージばかりでも、おじさんになってからじゃなきゃ始ちゃだめだなんて誰も言っていないし、おじさんが楽しめて私たちが楽しめないなんて、そんな不平等で不条理なルール誰が決めたの?とも思うから。

自分が「やってみたい」と思った気持ちを率直に大切にしたいから。

ただそれだけで身体が勝手に動いていた。

図書館に行き本を読み漁り、基本的な育て方を学び、次にどういった環境が適切なのかを調べ、ベランダの環境整備を進める。いきなり全ては揃わないので盆栽とは時間差で届くことになったけれど、必要な台の発注までは済ませることが出来た。そして最後に盆栽を手入れする用の道具を揃える。肥料や水をあげる時のジョウロ、枝を剪定するハサミなど、必要なものはまだまだある。こういう道具は予算と相談しながら少しずつ揃えられるなら揃えていくことにした。

そして今日、待ちに待った盆栽が届いた日だった。


箱を開けてみると、サイトで見ていた以上に大きく枝葉を伸ばして、青々と茂らせた葉が綺麗だった。「生きてる」って実感した。


そういえば盆栽の本には、盆栽は日当たりと水やりが大切ですとどの本にも記載があるのだが、中でも一番心に刺さったのは、次の文章だった。

「盆栽は部屋で生きることは出来ても、活きることは出来ません」

この一文から、もしかしたら今の自分と照らし合わせて活きたいと願った自分がいたのかもしれない。なんて振り返ってみる。

どうしたら活きることができるのか、自分なりに盆栽を育てながら見つめ直していこうと思う。

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