【小説】 私の役回り

「いい人いたら紹介してよ!」

と言う言葉に出てくる「いい人」って一体どの人を指すのだろう。

英語の「image」と同じくらい漠然とした曖昧なもので、気軽に紹介できない雰囲気を纏っているその言葉の定義はない。形のない言葉。だから、この言葉を聞くと私は戸惑い、言葉に詰まる。なんて答えようかと。なんて返そうかと。

相手の意図としては気軽に紹介してほしいのだろうけれど、私から見た「いい人」が、他人から見た「いい人ではない人」に定義される可能性だってあるし、紹介する仲介者である私の立場がなくなるのも困るので、答えづらい。かといって友達の役に立ちたくないというわけでもない。少しでも力になれるなら、力になりたい、けど難しい。本当に難しい。匙加減が難しい。

「うーん、私の周りクセの強い人が多いからなぁ...」

と言って苦し紛れにお茶を濁しつつ、具体的にどんな人がタイプなのかを切り込んでいくのが最適解だと、最近学んだ。好きな芸能人だったり、ここだけは譲れないこととか、こういう人と一緒にいたいなーっていう理想だとか。趣味だとか。何だか自分が婚活コンサルのような役回りだなと思いながら聴きまくる。そうすると次第に具体的な項目が見えてくる。優しい人がいいだとか、しっかり稼ぐ人がいいだとか、一緒の趣味で盛り上がれたらいいだとか。なるほどと言いながら、続けて聞いていくと、彼女の本音がポロッと吐き出されたりする。

「色々考えてみて、私、一緒にいて楽しい人がいいんだよね...」

そんなキーワードとも呼べる一言が出たら、ああ、良かったと心から思うのだ。この言葉こそ、彼女の思いそのもので、向き合った結果生み出された本心で、この本心を元にきっと彼女は次へ進めるから。


******


人は時々自分の考えがわからなくなる。どれが本心で、どれが優先で、どれが自分自身の考えなのか、わからなくなる。

これだけの人が一斉に日々を生活して、人の話を聞いて、自分の話を相手へ伝えて、動いて、沢山の人と会うことをしていたら、そりゃ誰だって迷うと思う。私だって沢山迷って悩んで苦しんできたのだから。だからこそ、相手にとっての悩みや苦しみを少しでも解消してあげたいと思うし、その手助けはしたいと思う。人助けってそう言うことのような気がするのだ。そして今回私は彼女自身を救えたのだ。話を聞くというただそれだけで。


******


「ありがとうね」

そう言って笑う彼女の笑みはにっこりと膨らむ。この日の巡り合わせは、きっとこの役目の為にあったに違いない。こうして私の役回りは、果たされたのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?