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コモンズによる自然資源の管理:人間と非人間の対等な関係とは②

こんにちは。

前回の続編として、コモンズに関する内容Part2をひっそりと書き起こします。

投稿の最後に、おすすめ記事のリンクを貼ってあります。

興味のある方はどうぞ。


II 人間と環境の関係を再構築する


2.1 コモンズの構築:人間と非人間の関係

さて、コモンズは、資源、それを利用する人の集団、利用に関するルール、そしてそのガバナンス構造という4つの原則によって特徴づけられる資源の集団管理の形態のことを指していました。

また、その資源のことをコモンと呼ぶことは前回に触れたかと思います。


現代社会において、私たちは自然資源におけるコモンズの重要性を理解しつつあります。

しかしながら、理想的なコモンズを構築し運用していくにはまだ困難が伴うようです。

ピエール・ダルドとクリスチャン・ラヴァル(Pierre Dardot et Christian Laval)はその著書の中で、コモンはすべての人が共有する単純な財産ではなく、共同所有や共同参加でもなく、共同活動(une coactivité)であると述べています。

その理由は、コモンが「実践の中でのみ」形成されるからです。

言い換えれば、コモンズとは、私有化や個人化に抵抗するために実践の中でその存在意義を再確認されてきた、持続可能性や倫理的な面で優位な共同活動の形なのです。


世界各国で古くから見られたこのコモンズという「慣習」は、現代社会において環境問題や政治的な議論と結びつき、広まっていきました。

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現代社会において、Faire Commun(フェール・コマン)とは、「人々が必要とする資源の使用、生産、保存に責任を持つために、共同で組織化する社会的プロセス」と定義されています。

このFaire communの過程では、自然を人間の支配下に置くのではなく、人間の活動と自然の再生サイクル(リジェネレーション)がバランスを取り合う必要があります。

つまり、人間は、非人間(自然資源)の再生サイクルに基づいて、彼らのCare(配慮、尊重)をする責任があるのです。

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Patrick Bresnihanは論文の中で、アイルランドのCastletownbereの商業漁業を例に挙げ、沿岸のロブスター専業漁師の自然資源へのCareについて説明しています。

彼らの漁業は、捕獲するロブスターの数を制限し次年度の量に備えるだけではありません。常に、捕獲するロブスターの種類、頻度、量、海中にトラップを放置する時間などを把握し、ロブスターやその生活環境に悪影響がないか観察しています。

これは、漁業者にとって、代々受け継がれてきた「常識(Common-sense)」であり、ロブスターの再生サイクルを保護・維持するための自主的な保全活動です。

この自主的な保全活動は、専業漁師の生活が完全にロブスターによる収入に依存しているという物理的な制約から生まれる、自然な活動といえるでしょう。

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人間以外への生き物や環境への配慮は、人間が生きていくうえでの「資源への依存」を明確に示しています。

しかし現代社会において、このCareという概念の構築と意識の変化は、まだまだ困難であるようです。


一方で、私は、日本での経験で非常に興味深いと感じたことがあります。

私は研究論文の執筆のために、日本の農家にインタビューをした経験があります。

彼らは、2019年に長野県を直撃した台風のあと、全員が農地への浸水を経験しました。話を聞いているうちに、彼らは浸水の被害に困りつつも、それらから長年恩恵を受けていることを教えてくれました。

「被害」だけでなく「恩恵」ももたらしてくれる。

実際に彼らは、自然への畏怖を持ちつつも脅威にあらがうことをせず、配慮する姿勢を持っていました。

この時私は、現代日本においても、人の自然に対する謙虚な態度が存在することを改めて確認しました。

これは、人が「非人間へ真の意味で配慮する」ことを可能にすると考えます。

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2.2 実践における規模とアクターのエンパワーメント

ここまで、人間と非人間の関係を確認しました。この関係性は、認実践のコモンズ構築においてどのように実現されるのでしょうか。

これを考えるには、ガバナンスの規模を再考する必要があります。

1987年から議論されてきたブルントラント報告書にある「グローバル・コモンズ」という言葉は、自然資源というコモンが、各国の資源ではなく、世界のみんな(グローバル)の資源であるという前提に立っています。

しかし、ドナルド・トランプがパリ協定からの離脱を宣言するなど、気候変動に否定的な姿勢を見せた事例からも、自然資源のグローバルなガバナンスは不可能であると考えられます。

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では、資源を管理するのに最も適した規模とは何なのでしょうか?

ここでは、「テリトリー」と呼べる規模(フランス語では、Echelle territoriale、つまり、Territorial scaleと呼んでいます。)を、その最も適切な規模として提案します。

この考え方のもとになっているのが、Territorialiste(テリトリー主義)です。

テリトリアル主義者は、人間の活動がそのテリトリーに固定されていることの重要性を主張し、何よりもまず、グローバルな新自由主義を批判します。

したがって、グローバルコモンズの概念も批判しています。

テリトリー主義では、地域社会に権限を与え、その能力を強化することが、グローバルな競争や天然資源の過剰な搾取を克服する唯一の方法であると考え、自立した地域開発の必要性を強調しています。

テリトリー規模での共同管理の課題の一つは、テリトリーを限定してしまうことです。

つまり、一部の地域のみに焦点を当てた経済活動は、「発展」という意味で、じきに限界を迎えます。

そのため、一つのテリトリーを超えたテリトリー同士の相互関係を構築することが大切です。それが、お互いの利点を生かしたWinWinの関係であれば、一層の発展が見込めます。

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また、現代社会におけるコモンズの実践においては、アクターのレベルが複雑に絡み合っています。

官民共同の資源管理などがその例です。

例えばグアドループの公共プログラムでは、この官民共同での管理が試行錯誤されています。

ここでは、国の環境保護計画拡大の一環として、Sol et Civilisationというコンサルタント企業が、AgroParisTech、Mutadisという研究機関との共同で、海洋水質の持続的発展のための地域戦略を実施することになりました。

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グアドループでは1990年代まで、クロルデコンという成分がバナナの農薬として使われていました。

その結果、これらの分子が土壌を経由して水に拡散することで、海岸付近の住民、特に列島南部の住民の健康、環境、さらには政治的な危機につながっていたのです。

Sol et Civilisationによる協議の過程では、約130人の関係者(地域の関係者、住民、公的機関、民間企業など)が当初から参加し、知識を深め、持続可能な開発についての共通のビジョンに合意しました。

また、水質を改善するための一連のアクションの重要性や、複数のアクターによる共同装置の設置の重要性についても合意を得ようと試みました。

このような共同作業により、地域の状況に適した、革新的で予想外の解決策が生まれる可能性があります。

しかし、それぞれのアクターの利害が異なるがゆえに、協調はしばしば困難です。

ここまで、自然の再生サイクルの認識に基づく人間と非人間の関係はコモンズの本質的な要素であり、それを構築するためには、適切な規模を考慮する必要があることを見てきました。また、何層にも重なるアクター同士の正しい理解が必要です。

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終わりに

自然資源におけるコモンズは、歴史上純粋に存在していましたが、今日では自然資源の公・私・共同管理が複雑に絡み合ったハイブリッドな形で存在しています。

このコモンズは、現在起きている環境問題を解決するための手段となりうる自然資源の管理形態といえます。

なぜなら、人間が自然資源の再生サイクル(リジェネレーション)を尊重しながら活動する(Care)という原則は、自然資源に頼って生きる人間にとって不変の常識であるからです。

また、実際のコモンズの構築においては、Careの前提に基づいて、テリトリーの規模に応じたすべてのアクターの協議が重要となります。

このようにして、私たちは世界の特定の地域でコモンズを実現していく過程にあります。

コモンズは、人間と自然の間の平等で相互依存的な関係を強調し、強化することで、自然資源の代替的な管理形態となり得るのです。

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この記事で私が強調したかったのは、「自然の再生サイクル」でした。リジェネレーションです。

これが、私たちが見直すべき本質であると思います。

SDGsが商業的に利用され社会に浸透している今、ここで紹介したコモンズのような本質的な前提を踏まえた議論をしていかなくてはならないと考えます。

皆さんはどう思われたでしょうか?

最後までお読みくださった方、ありがとうございました!


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池田夏香:パリ第10大学(Université Paris Nanterre) / 地理・都市政策・環境学部(Géographie, aménagement et environment, Nouvelles ruralités, agricultures et développement local)

「地方創生×自然資源/ 農業」をテーマに発信しています!

アフリカにおけるコミュニティ開発にもかかわっています。



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