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インテリジェンス メロドラマ『マチネの終わりに』

 荒んだ心を浄化するような恋愛小説が読みたい。僕のなかの乙女がそう叫んでいたのです。という訳でそんなおっさんの中に棲む乙女心を飼いならすべく、恋愛小説を探してみました。

『マチネの終わりに』
https://www.amazon.co.jp/dp/B07SPKVPGW/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1

天才クラシックギタリスト・蒔野聡史と、国際ジャーナリスト・小峰洋子。四十代という“人生の暗い森”を前に出会った二人の切なすぎる恋の行方を軸に、芸術と生活、父と娘、グローバリズム、生と死などのテーマが重層的に描かれる。いつまでも作品世界に浸っていたいと思わずにはいられないロングセラー恋愛小説を文庫化!

 ちょっと古いですが、映画化もしたので結構話題になってましたね。今回はこの作品をレビューしたいと思います。(※軽くネタバレしているところもあるので、その旨をご了承いただける方のみ読み頂ければと思います。)


重厚な表現だけど結構トレンディ


 ストーリー運びとしては、往年のトレンディドラマよろしくすれ違う男女のアレコレで読者がヤキモキしつつ、恋のライバルも出てくるという、結構ベタな感じです。ストーリーはそれほど目新しくもないですが、中東問題や音楽に関する深い造形から来る専門知識をふんだんに絡めつつつつ、腕前の良いシェフが大人の恋愛を調理するとこんな感じになるんだなぁと、思わず唸らされました。さすがは芥川賞作家という筆致。
 しかし、映画版は観ていないですが、ストーリーだけ追うと安っぽいメロドラマになってしまうので、逆に映画には向いていないような気もしますが、実際の映画の出来はところはどうなんでしょう。

 さて、小説の話に戻ります。この小説の一部のレビューを読むと、『難解で気取った感じがいけ好かない』という意見もありますが、まあこの人そういう格式ばった文章と知識で圧倒するタイプの作家さんなので、そこが合わないともうこの作品は合わないような気がします。 

 全体的には面白かったですが、二人の恋愛が成就するまでの描写が丁寧に描かれている一方で、ドラマが動き出すまでが長く、途中まで読み進めるのが少し重たい感じでした。後半は結構続きが気になってスルスル読めるけど、前半はちょっと重たい描写と相まってきつめでしたね。

 あとはリアリティ表現としてはツッコミポイントが多かったかも。偽メールのシーン以降、すれ違いが加速して面白くなりますが、『こんなんしたら絶対バレるやろ』という心の声が拭えなかったのも減点ポイント。その後、数年経って過去の悪事を告白するところも『えっと、君、今そこゲロする必要ある? しらを切り通すべきやん?』と思ってしまって、そこらへんのリアリティ感には乗れなかったです。

 人物造形も蒔野の方はまだ気まぐれな天才としての現実感はあったけれど、洋子は数年ぶりに1回会っただけの人間から神学の話をペラペラと話されて普通に会話できるって『ほんとこんな人間いるん?』って感じでもありました。洋子はとにかく美しいとか賢いって表現が多くて、表現としてはわかるけど才色兼備という点が強調され過ぎて少し鼻白む感じがしましたねえ。

 うーん、最後はツッコミどころについて語ってしまいましたが、落ち着いた大人の恋愛小説としては、ほんとうまくまとまっていて面白かったです。恋愛小説に飢えている方、おすすめです。


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