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赤い糸|保護犬まめちゃん

まめちゃんがうちにやってくると決まった今日のことを忘れないように、書き留めておこう。

「まめちゃんが幸せになると確信しています。どうぞよろしくお願いします。」

福島の浪江町で保護された豆柴が、シェルターから引き出され東京の預かりさん宅で過ごしているという。動物の里親募集サイトの情報によると、「やさしい女の子」だそうだ。保護団体さんが参加しているイベントがあるのを知り、豆柴の「まめちゃん」に会いにいったのは昨日のこと。

まめちゃんは、初めて会った私たちに対して威嚇することもなく、慎重に近づいてきて匂いをクンクンして確かめてくれた。それだけで、胸が一杯になった。人間側も気に入られるか緊張していたのだ。
体も触らせてくれた。尻尾フリフリしたり、いわゆる犬の喜ぶ仕草を見せたりはしないけれど、顎まわりを撫でてあげると、うっとり目を細めた。

町を放浪していたところを保護されたまめちゃんは推定2〜3歳。人を怖がらない様子から、おそらく飼い犬だったのでは、とのことだった。詳しい境遇は分からないけれど、とにかくやさしい性格がうかがえた。イベントには沢山の犬が来ていたが、吠えたり、興奮する事もない。静かに挨拶しに行くのだがちょっとしつこいと相手に怒られる、といった具合。穏やかで、ちょっと空回りしている様子に癒される。「この子なら、迎えられるかもしれない。」と思った。

実は、家族の中で犬の飼育経験があるのは私だけ。夫と子供は犬種もよく知らない。コーギーを指して、「あれって芝犬?」と聞いてきたこともあった。

犬を家族として迎えたい。できれば、里親として。私たちは何度も「里親会」や「オープンシェルター」に足を運んだ。そこには、多頭崩壊現場など悪質な環境で生き延びてきた子や飼主の身勝手な都合で飼育放棄された子など、色んなバックグラウンドを持った犬達がいた。まだまだ人間が怖くて、信用できなくて、しきりに吠えている子も多い。小さい子供や飼育未経験者には難易度が高い・・正直そう思ったし、シェルター側も飼育経験者を歓迎する、とのことだった。

「成犬になってから迎えても懐いてくれるのかな・・」
「しつけられるかな・・」

シェルターにいた犬たちを目の当たりにし、彼等がそう思ったのも無理はない。私も経験があるとはいえ、自分自身も当時は子供だったし、仔犬から飼っていたのでこればかりは自信がなかった。

けれども、まめちゃんは今まで出会ってきた犬たちの中でもっとも穏やかだった。スキンシップをとらせてもらった短い時間、私たちの間には静かであたたかな空気が流れていた。「まめちゃんならきっと大丈夫だ。」

すでに何件か申し込みが入っていたらしいが、私たちもエントリーした。

そして今日、保護団体の方からメールが届いた。選考に数日掛かると聞いていたので、少し意表を突かれた。高鳴る鼓動を感じながら開封したメールには、我が家を里親に選ばれたということ、そして、このようなメッセージが添えられていた。

「まめちゃんが幸せになると確信しています。どうぞよろしくお願いします。」

少し伏し目がちだけれど、四本脚をしっかり踏みしめ立つ、昨日のまめちゃんの姿を想った。確か、唐松模様の赤いスカーフか、赤いリードをつけていたように思う。その力強い「赤」が運命の糸になって私たち家族と繫がった瞬間だった。
まめちゃんは今までどんな生活をしてきたのだろう。もしかしたら、「生活」と呼べるようなものではなかったかもしれない。熱いものが、みぞおちにずん、と降りてきた。責任感やうれしさがぐちゃぐちゃに入り混じって、涙が止まらなかった。

まめちゃん、ぜったいに幸せになろうね。
お父さん、お母さん、お兄さんが待ってるよ。

#保護犬 #レスキュードッグ #いぬとの生活 #柴犬 #豆柴 #エッセイ #日記