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心霊マスターテープ2 感想※ネタバレ

※完全ネタバレ※


2022/07/12現在AmazonPrime配信中!

 あらすじ
 心霊ジャンルのクリエイターたちはある日、白黒の謎の実験の映像テープが発見する。どうやら呪いの念写写真なるものが存在し、それを見てしまうと目から血を流し、苦しみながら死ぬようである。心霊クリエイターからすれば美味しいネタではあるが、そもそも、そんな写真は実在するのか。わからないながらも、いろんな人たちが協力し、真相を追っていくうちに、スマホに覚えのない恐ろしい画像が保存されていたり、知らない赤い跡が身体に出たり、人が消えてゆく。
 いったい、過去になにがあったのであろうか……。


 過去に実際に日本で流行ったことのある超心理学実験、念写実験を題材にした作品である。それをコロナ禍のモキュメンタリーとして、チープなところはどこまでもチープであるし、説明不足な点もおおいにあるが、爽やかなラストにまとめあげている。実際のクリエイターと俳優が混在しているので、演技面でやや違和感はあるかもしれない。
 よく練り上げられ、コストがかかった丁寧なホラーが観たいという方には『ストレンジャー・シングス』(こちらはハラハラドキドキよりも青春ジュブナイルの色が濃い)や『返校~言葉が消えた日~』、『死霊館』『インシディアス』をオススメする。名作揃いだ。

 この作品の最大の見どころはふたつあり、ひとつめはコワすぎ! 陣だろう。良くも悪くも、流れを劇的に変える存在である。元気だったか工藤。
 ふたつめは、シノミヤキリ=ヨネというキャラクターだ。モキュメンタリーにあるまじき「完全にファンタジー」な存在なのに、魅力がある。

 以下、鑑賞後に思ったことをつらつら書いておく。

・呪いの念写写真は過去に海に破棄されており、存在しないのであれば、現代の犠牲者はなぜ犠牲になったのか。

 ~今作の怪異のみなさん~
 【スマホの謎の顔写真】→ヨネの「念写」。
 【失踪】→ヨネであるなら、最後にわざわざ本人降臨して「命を懸けろ」と脅す理由がない。
 【跡】→説明不可能。
 謎の白い女のおばけ→誰? 遊びにきたのか?(金田さんの映像のほうの白いのは「霊能力の可能性はゼロじゃない」というメッセージかと)

・何が小田原家を一家心中に追い込んだのか。→シノミヤキリの言うとおり、念写写真のせいであれば自爆ということになる。せつない。


 シノミヤキリ(ヨネ)とはいったい何者なのか。

 ヨネの能力は「不老不死」「念写」「千里眼」と思われる。おそらく、遠い昔から存在しており、人間ではあるが超越した存在。ほぼ人外といっても差し支えないのではないか。
 「永遠に若い」「千里眼ゆえに気がきく」「身元不明でもなんとかなる」「いつでも辞められる」という利点から、過去は女中、現代ではキャバ嬢をしているのだろう。
 縁があって小田原家の女中となり、志津江と出会った。写真から察するに関係性は良好。とはいえ、この時点では、ヨネにとっては数多いる人間のうちのひとりでしかなかった。
 ヨネが念写能力を(戯れに)見せたところ、志津江はあたかも自分が能力者であるかのように吹聴し、振る舞うようになった。志津江は帝国大学にまで呼ばれるが、インチキで成功し、発覚し、失敗という記録に書き換えられる。そのせいで村八分にまで追い込まれる。
 もしかすると、旧小田原邸の古びたキャリーケースからヨネの写真が出てくることから、実際にはふたりで上京しており、替え玉でヨネが成功させ、志津江がヨネを利用していることを悔い改め、正直に申し出たのかもしれない。福来教授が後日シノミヤキリを訪ねている理由にもなる。

 現代組が「透視はがんばればできる気がする」ということを言っていて、同じことをヨネも志津江に対して思っていた(察知していた)のではないか。彼女は命懸けで念写写真を完成させる。だがしかしそれは世を呪う気持ちから生まれた呪物だった。
 ヨネはきっと、ここで初めて、志津江のその覚悟に惹かれたのだろう。
 写真が蔵本に奪われ、悪用されそうになるのを、蔵本の娘とクラスメイトになることで写真を奪取し、破棄する。

 では、なぜ、心霊マスターテープ2に現れ、意図的に自分までたどり着けるようにしたのか。ヨネは「すべて知っているし、読めているし、わかっている」くらい超然としたキャラクターに見える。虫切守とコメントしたら、追いかけてくるのは読めていただろう。ニコニコのアカウント名とインスタのアカウント名を共通にしていたのは、わざとだ。
 それは、登場スタッフたちの「人の命を娯楽として扱う心霊ジャンルのクリエイターたる覚悟」を求めたのではないか。昔、志津江が見せたその覚悟と通ずるものを。
 というのも、このテーマは前作『心霊マスターテープ』でも明言されているのだ。
 ホラー作品というのは人の生き死にをエンターテイメントとして昇華しているものである。人間は生まれたからには死ぬ宿命がある。どんな家でも、場所でも、病気や事故で亡くなる人は存在する。そんな家や場所をホラー作品では「いわくつき」として面白おかしく取り扱う。その「いわく」というのは、誰かが事件や事故で亡くなっていることがほとんどである。後年になって廃墟となった場所は肝試しスポットになることもある。自殺にせよ他殺にせよ、死は悲しいものだ。そして恐ろしいものである。それを不気味に、劇的なエンターテイメントに演出するのがホラー作品なのだ。

 この作品では登場スタッフ同士の生々しい衝突がたびたび描かれる。なかでも『残穢~住んではいけない部屋~』の中村監督に対する嫉妬がある。低予算のチープなモキュメンタリーではなく、大々的な映画作品に憧れているのではないかという嫌味な指摘が殴り合いの喧嘩にまで発展し、後半でようやく仲直りする。そういったところもヨネは見ているだろう。杉本さんが覚悟を見せ、彼女を守る涼本さんの勇気とこれまた覚悟を見て、中村監督に念写メッセージを飛ばした。
 ヨネにとってはきっと、ぜんぶ、限りある命しかもたない人間たちの戯れでしかない。
 彼女は見ているだけだ。
 それでも、介入したくなる「覚悟」を、志津江や、心霊マスターテープ2のスタッフは持っていた。

 それはそれとして、やはり、なぜか失踪者が何人も出てしまうのと、謎の白い女のおばけはなんだったのかわからない。これらの要素がなくとも、話が完成するだけに不思議だ。
 わからないが、このヨネというキャラクターと、オチの爽やかさは傑作である。