合流車線の数理

背景

加速車線の先頭まで行って合流を 高速道の渋滞緩和策呼びかけ」というウェブ記事をきっかけに、2車線の本線に1本の合流車線から車が入ってくる場合の流量(通過台数)のバランスを考えてみることにした。すべての車線について渋滞すでにしていて、車は十分ゆっくりと走っていることを前提とする。 記事にあるブレーキを踏む回数についての評価はせず、単純な通過流量の評価だけである。(余談だが、リンク先記事の画像では合流車線が右側にあるので、少ししっくりこない。)

モデル

以下、本線は2車線(左から第1レーン、第2レーンと呼ぶことにする)、合流側左から1車線(第0レーンと呼ぶ)という状況を考える。
渋滞時の本線の流量を1車線あたり毎分 U0 台とする。合流が完了した先の流量 U1, U2 はどちらの車線も U0 となる。合流のずっと手前での流量をそれぞれの車線で V1, V2 と表記し、合流レーンの流量を V0 とすると保存則として、

V1 + V2 + V0 = U1 + U2       (1)

が常に成り立つ拘束条件になる。これは、ある合流区間を区切って考えると、そこへの流入量と流出量がつりあうことを示す。

以下の検討では、第1レーンを走行していた車が合流区間の間に何台の車を入れることになるのかが、パラメータである。合流区間で、自分の前に合流する台数を a とする。(0 < a)
また、第1レーンの車のうち一定の割合 b の車が,合流区間内で第2レーンに車線変更する。 (0 <= b <= 1)

いくつかの合流モデルを作って V0、V1、V2 を比較し、どれが合理的かを考えてみよう。ここで数値例としては U1 = U2 = U0 = 20 台/分という道路として評価する。

モデルの評価

最初は、注目している区間内では車線変更禁止というシンプルなモデルを考える。

モデル1

合流車線からの車が末端以外でも合流するケースでは、自分の前に合流する台数は a > 1 台である。
U2 = V2
U1 = V1 + V0
V0 = a × V1

(1) と合わせて計算する

V2 = U0
V1 = U0 / (1 + a)
V0 = U0 × a / (1 + a)

数値例として、a = 1.5 のときには、

V0 = 12
V1 = 8
V2 = 20

第1車線の車からすると、前に入れた分だけ通過流量が下がる。当たり前の結果だ。V0 よりも流量が下がってしまうというのは、フラストレーションかもしれない。

モデル2

合流車線からの車が合流車線を末端まで使ってから合流するケースは a = 1 となる。
V0 = 10
V1 = 10
V2 = 20

第1レーンの車としては、一定の納得感はあるかもしれないが、まったく合流の影響を受けない第2レーンだけが有利すぎる。

モデル3

モデル3 以降について,式に間違いがあったので修正した。
(2019年8月18日)

第1レーンの車のうち一定の割合 b の車が,合流区間内で第2レーンに車線変更することを考える。 (0 <= b <= 1)
U2 = V2 + b × V1
U1 = (1 - b) × V1 + V0
V0 = a × (1 - b) × V1

(1) と合わせて計算すると、

V1 = U0 / {(1 + a) × (1 - b)}
V0 = U0 × a / (1 + a)
V2 = U0 - U0 × b / {(1 + a) × (1 - b)}
   = U0 × (1 + a - 2 × b - a × b) / {(1 + a) × (1 - b)}

数値例として、末端以外でも合流する場合 a = 1.5 を考え、さらに第1レーンの車のうち3台に1台が車線変更するとして b = 0.33 とする

V0 = 12.0
V1 = 12.0
V2 = 16.0

第2レーンの流量をもっと犠牲にして、第1レーンは10台/分に近い通過量を確保できる。合流してくる第0レーンにもメリットがある。

モデル4

第1レーンの車のうち3台に1台が車線変更し、末端まで使って合流する場合  (a = 1, b = 0.33)
V0 = 10.0
V1 = 15.0
V2 = 15.0

この状況だと第1レーンと第2レーンの通過流量は同じになる。合流車線は 10 台/分しか流せない。

さらに、各レーンの流量が均等になる条件を探してみた。多少の試行錯誤で,解が得られた。

モデル5

a = 2, b = 0.5 

合流車線からどんどん車が入ってきて、第1レーンの車の前には平均2台入れる。ただし第1レーンの車の半分はその前に第2レーンに車線変更して、この受け入れを回避するという状況。

V0 = 13.3
V1 = 13.3
V2 = 13.3

モデルの比較表 

(2019年8月18日修正)

考察

合流側から考えれば,いずれの場合も先頭以外でも合流して、a > 1 となる状況を作った方が,V0 は大きくなる。ただ流量の増大率は 20 パーセント程度なので、ストレスフルな運転をして、ギリギリと頭をねじ込むほどのことかどうかは疑問である。
ただ、この合流がパーキングエリアやサービスエリア(PA・SA)からの合流の場合には、V1 を低下させるということは、PA・SA手前での第1レーンの流れを悪くする面がある。先頭合流 (a = 1) を徹底すると、PA・SA にスムーズに入れるようになる効果が期待できる。

全体最適という意味では、合流区間の手前で 第1レーンから第2レーンへの車線変更がバランスを向上する。(事故防止の面では、渋滞中の合流区間での車線変更は推奨されていないのかもしれない。)
特にモデル5は、第1レーンを走っていた車の半数が第2レーンに移行するというモデルであるが、これでようやく全体のバランスがとれる。このとき,第1レーンを走り続けた車は、前に2台を受け入れることになる。これについては、別の見方をすると合理的に説明できるので、道路合流の1構造案 という別のノートにまとめた。

本線ユーザーの行動としては、第1レーンを走っていた場合に合流区間内で可能なら第2レーンに車線変更するという先を読んだ行動が全体のスムーズな通行に寄与する。(繰り返しになるが、ブレーキを踏む回数、衝突の可能性が増えるかどうかなどは考慮していない)

ここまで見た限りでは、合流車線を最後まで使って合流するというルールは,誰にとって「渋滞を緩和する」のかがあいまいな訴えかけではある。最終的には「お互いに譲り合う気持ち」への働きかけになるのだろう。


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