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「薬剤師」とは何か。

薬剤師と言えば、「お医者さんが言った薬を出す人」と思うのがほとんどだろう。

そして「そうではない!」と主張する薬剤師は、

「薬剤師は、先生のミスを見つけてるんだ!副作用や、併用薬などみて患者さんに安全に薬を渡してるんだ!みんなが思ってる以上に大変なんだ!」

という声をよく耳にする。

どちらも間違っていないが、私はいつも違和感を覚える。

薬局を離れた私が言うのも何だが、今回は薬剤師を辞めたときの私を振り返ってみることにする。


薬局を離れることを決断した私の脳裏に、1番に思い浮かんだことは、患者さんの事だった。私にとって患者さんは家族だった。
だからやっぱりわたしは、患者さんたちの事が大好きだったんだなと思う。

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思い浮かぶのは「いつもありがとう! この前もこういうことしてくれて。。ほんとなんてお礼を言ったらいいか。。」って薬局カウンターで言ってるおばあちゃんの姿。

「あいつはそういうところあるからさ!まったくもうね! 」とお相手の事をいう強いお母さん。本当はほっとけないし好きなんだろうな。

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「あんたに言われちゃもう少し頑張って生きてみようかな。」

「おれはあんたじゃなくちゃダメなんだよ。他の薬局行っちまうなら俺もそっちの薬局にいく。」

といつも差し入れをすっと渡してかえる不器用な江戸っ子おじいちゃん。

男の子

「薬剤師のお姉さん!聞いて!ぼくね! 」と恥ずかしそうな顔をしながら駆け寄ってくる男の子。善逸みたいにお母さんを守ってあげるって約束したの。

思い出すと書ききれないくらいほどに、私は患者さんの事を愛していたし、愛されていたなと実感する。
そんな姿を思い出すと、この文を書きながら涙がこぼれ落ちそうになる。


そんな中で私の背中を押してくれた一人の女性がいる。

公園

とある日の昼休み、私はいつも通り公園を歩いていた。

すると、私がいつも担当している女性患者さんがいた。
その人も私の姿に気づいた。
「ああ!薬剤師さん!いつもありがとうございます!」その人は笑顔で話してかけてくれた。

精神的にも肉体的にも限界が来ていた私は、その笑顔だけで正直涙が出そうな状態だった。
頑張って平常心を保ちながら、「こんにちは、その後お体はどうですか?」とあいさつをした。

休憩時間もまだあったので少し公園で話すことになった。

公園のベンチ

「この公園良いわよね。自然が豊かで。散歩していると気持ちが良くなるの。」

「あら! 私、あなたのお母さんと同じ年くらいなのね。」

と、そんなことを話していたらいつの間にか、患者さんとお母さんの姿が重なっていた。

女性は話を続けた。

「私あなたに会ったのも何かの縁だと思うんです。主治医もそう言っていたわ。私、不安いっぱいの中東京にきて。子供の事も、コロナの事も、仕事もどうしようって。その時優しく声をかけてくれたのがあなただったんです。だからすごく救われて。」

『そんな。あたし、大したこと出来てません。。いつも救われているのは私の方です。いつも感謝してます。』

患者さんとお母さんの姿が重なってしまったのと、心がパンク寸前だった私は、思わず口を開いてしまった。


『こういうこと誰にも話していないんですが、私、、』

「大丈夫よ。誰にも言わないから。」

『私多分薬局を離れることになると思うんです。。どうなるとか、いつとかわからないけど。。いつも仕事中は元気に見せてるから周りにはそういう風に見られないんですが、、自分でも心も体も限界に来ていることが感覚的にわかってて。死にたくて仕方なくなっちゃうことがあるんです。薬剤師の私が患者さんにこんなこというの変だと思うんですが。。』

「うんうん、それは辛かったわね。」

女性はそのままの私を受け入れて話を聞いてくれた。

『患者さんのこと大切に思ってるからこそ、現状を知ってるからこそ、患者さんに対しても、薬局の中の事に対しても、何とかしてあげよう、変えていかなきゃって毎日頑張って働いて。でも、頑張れば頑張るほど患者さんは喜んでくれるけど、この薬局からいなくなれないなって。思ってしまって。』


今思うと当時の私は、辛いことも、こうしたいと思うことも、どうせ否定されて受け入れてもらえないと思って、どこにも吐き出せる場所がなかったんだなと思う。

『でも自分がやるべきことはもっと他にあるんじゃないのかって強く思う自分もいるんです。』

『このまま小さな薬局で働いて、いろんな患者さんをみて、何年かして少しづつ役職も上になっていって。そういう未来もあるんですが、何だかすごくつまらなくてもどかしくて。もっと広い世界があるんじゃないのか。もっと広い世界で、もっとたくさんの人を救いたいって思うんです。』


「そっかあ。いなくなっちゃうのはさみしいけど、、

そう思うならそうしたほうがいいと思う!!」

私は思わず目を丸くした。


「私は夏実さんがいなくなっても、夏実さんの事応援してるよ!私も夏実さんに背中を押されたから!
私の事はもう心配しなくて大丈夫!おかげで体調も良くなってきたし、十分助けてもらったから!」


涙がこぼれ落ちた。

そんなことを面と向かって言ってくれる人なんてそうそういない。
だって、ただの薬剤師と患者の関係だよ?

でも今まで自分がやってきたことが無駄じゃなかったんだと思えて涙が止まらなかった。


薬剤師_見送る

薬剤師って「資格をもってる薬を出すだけの人」じゃなくて、
一人一人の未来に想いをはせて、
医療の最後の場所を飛び立つ患者さんの背中をそっとみまもる人。

傷ついた鳥が再び空を飛べるように、その門出を「あなたなら大丈夫よ」って心から信じて見送ってあげる仕事なのだと思う。

そういった意味ではこの女性も私の薬剤師だ。

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