自転車サンタ
クリスマスの思い出といえば、ふと思い出すことがある。
わたしは幼い頃、サンタを捕まえようとしていた。
母にサンタは英語しか読めない、と言われて必死に英語の手紙を書かされた小学2年生の冬。
手紙はとてもとても苦労して書き上げた。
そして母のいう通りに紙飛行機にして北風に乗せて飛ばした。
ぽとっと落ちたのが見えたけれど、あれでいいのかと聞くと母は、そのうちまた北風に乗ってサンタのところまで旅立つから大丈夫だとわたしを丸め込んだ。
大人になってから聞いた話ではわたしが部屋に戻ったあと父がダッシュで飛んだ手紙を取りにいったのだが、風で飛ばされてめちゃくちゃ追いかけて大変だったらしい。
まあ、ともかく、わたしはものすごく苦労して書いた手紙に対するレスポンスを求めていた。
なのでサンタを捕まえて話をしようと思ったのだ。
というか、その頃には少しだけ父や母を疑っていて、毎年鍵がかかっていて入るところもない家に侵入して、わたしの欲しいプレゼントを枕元に置くなんて、会ったこともないおじいさんにできるのだろうかと。
世界中で同じことを一晩でやるなんて無理じゃないかと。
父や母がこっそり置いているんだろうな。と。
でも幼心に本物のサンタ分身できる説とか本物のサンタ壁抜けできる説とかが捨てきれず、確かめたいような思いもあったのだ。
それに、もしも父や母がサンタの正体ならいったいあの英語の手紙はなんだったのか。
あの苦労、無駄じゃないか、そんなの許せん。
捕まえてやるどっちにしても!!!
とわたしは燃えに燃えていたわけだ。
わたしが住んでいたのはアパートの三階くらいで、壁に隠れて窓から外を偵察していた。
息を潜めて外を警戒しつつも父と母の挙動にも目を光らせる。
一時間、二時間、時間は過ぎる。
外は遠くのイルミネーションがチカチカする他に動くものはない。
雪が舞いだした。
はしゃぐ気持ちをこらえて外を見守る。
たびたび気を反らそうと話しかけてくる両親を片手で制止して、しっと黙らせる。
そのとき、外を自転車がさっと通りすぎていって角を曲がった。
すごい速さだった。
人間業とは思えないほど……
なに今の?と思って慌てて窓から身を乗り出すと、母が突然あーーー!っと大声をあげた。
「わたしあれ、見えた!サンタだったよ!」
はい?
「いやーサンタきたわぁ、サンタ!すごいね!最近のサンタ自転車でくるんだわ!」
ぽかーんとするわたしをよそに母は父を呼ぶ。
「今年サンタ自転車できてたわ!お父さん、サンタそこのかど曲がったからちょっと行ってきてよ!道迷ってるかも!」
いやまって!おかしい!いやおかしいよ!?
「おう!行ってくる!車なら追い付けるな!いくらサンタと言えどもな!」
いや、まってまって!?え?
混乱しているわたしを置き去りにして部屋着のまま、光の速さで父は外に飛び出していった。
わたしは慌てて追いかけようとしたけれどもう時既に遅し。
母にも雪降ってるから!とひき止められ追いかけられなかった。
父はその後、凍えながらプレゼントをもって帰ってきた。
「さ、サンタ曲がるとこ間違えちゃったから渡しといてくれって!」
わたしのサンタ捕まえる計画はこうして失敗したのだった。
「あのときは大変だったわぁ。」
「最大のピンチだったな。」
父と母はクリスマスが近づくたびにあのときのどきどきを思い出すのだと言っていた。
親って大変だね!
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