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多胎に「安定期」はないらしい。

604gと552g、小さく生まれた息子たちの記録(双子が生まれるまで③)です。前回はこちら

妊娠14週で破水し、2週間と言われた入院生活。羊水のない子(兄)は「どうなるか分からない」と医師に言われ続け、「MFICU(母体・胎児集中治療室)」で15週を迎えた。

一般病室に移動してからも、16、17、18週……とどんどん更新していく。費用はかさむが、嬉しい悲鳴だった。

一般的に16週(=妊娠5ヶ月)からは「安定期」と言われる。

つわりが終わり、母体が落ち着く時期。妊娠も落ち着いて流産の心配がない……と勘違いしがちだけれど、初期流産のリスクはなくても切迫流産(流産の一歩手前の状態)や切迫早産(早産の一歩手前の状態)のリスクがないわけではない。

そもそも医学用語ではなく、多胎妊娠には安定期なぞないらしい。

●特に、多胎児妊娠の場合は、おなかのはりに気がつきにくく、単胎の場合の安定期に当たる期間がないと考えても良いでしょう。
「多胎児支援のポイント」小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査 研究会

一般病室に移ってからやっていたことは、点滴(入院7日目まで)、週1、2回の血液検査と、週2回の超音波検査(エコー)。エコーは診察台に寝そべってお腹を出し、ジェルを塗られて機械を当てられる。

羊水が増えていますように。最初のうちは毎回そう祈って機械の画面をのぞいた。

「状況は変わらずですね。良くも悪くもなっていない」

その言葉を聞いて、最初は自然と涙が出た。先生は正直だ。私の願いは見事に裏切られる。

それでも赤ちゃんたちは「元気」だと言う。羊水があろうとなかろうと、心臓も体もしっかり動いているから。

いろんなリスクはあるのだけどポジティブに考えないと気持ちが保てないので、途中からは悪くなっていないことが救いだと言い聞かせた。

暖くんエコー写真(穏くん破水後】

穏くん破水後のエコー写真

(上:破水していない弟のエコー写真。体の周りの黒い部分が羊水の空間/下:破水した兄のエコー写真。左が頭。右の胴体側に黒い部分がない)

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入院当初、医師に「羊水注入」はできないか相談していた。

インターネットで前期破水について調べる過程で人工羊水(生理食塩水)を入れる方法があることを知り、わずかな希望を持っていたからだ。

しかし、医師の答えはノーだった。

注入する際に感染のリスクがあること、人工羊水を入れたとしても再び流れてしまうことなど説明を受けた。そもそも確立された治療法ではないらしい。

それでも当時は諦めきれなかったので、家族が羊水注入実績のある病院に問い合わせてくれていた。

ある病院は、こちらの事情を確認するまでもなく「紹介状がないとできない」と断られた。

ある病院からは「妊娠24週からしかできない」「今入院している病院の方針は信頼していい」という回答をもらった。

現実を突きつけられ、置かれた状況を客観的に理解できた気がした。正式なセカンドオピニオンではないので反則かもしれないけど、モヤモヤと一縷の望みがクリアにならないと先に進めなかったのだ。

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羊水増えてないかなぁ……という淡い期待は、週を追うごとに持たなくなった。

羊水がなくてもクネクネと動いている。羊水がないことで臍帯(臍の緒)が圧迫され十分な栄養が届かなくなることもあると聞いたけど、今は大丈夫。弟と一緒に、お腹の中で元気に生きていた。

入院21日目、この日のエコーでも「良くも悪くもなっていない」という結果だった。

何かできることはないか聞いても「やれることはない」そうだ。入院しているのに、複雑。こちらから聞いたわけではないが、改めて羊水注入に関しては「難しい」と告げられた。特に双子では難しい。羊水注入の影響で感染して、弟に影響するかもしれないから。

入院生活が長くなってきたので歩いたり立ったりしてください、とも言われた。体力が落ちて歩けなくなるのも困る。退院の選択肢もあるらしいけど、入院は続けることにした。退院後に何かあったら、自分を責める材料が増えてしまいそうで不安だった。

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羊水は日々作られる。

悲しいけれど、作られた羊水は私の胎内にとどまってはくれない。

多く出たときは、ナプキンを持っていくと看護師さんが重さを測ってくれた。最初は4g程度だったのが、日によっては5g、6g、10g、18g……多い時で30gも出ていた。生臭い感じもあった。色は無色の時もあれば黄色いこともあって、出血があると茶色やピンク色に染まっていた。

一番多く流れるタイミングは朝起きた時だった。寝ている間は溜まっているのか、起き上がってトイレに向かううちに意思とは関係なく流れ出る。

緑色のツブツブしたものが出ていることもあって、さすがにこれは異常だと焦ったけど、血液検査をしても感染の兆候はなく、原因はよくわからず。羊水が濁っている⁈ 胎便が混ざっている⁈ という不安は杞憂に終わった。胎便が出るのは妊娠後期で、中期での可能性は低いらしい。

羊水がたくさん流れても、出血があっても、緑色のブツが出てきても、やっぱり追加の治療はなくて、引き続き経過観察だった。

水天宮のお犬さま

(水天宮の「子宝いぬ」もマスク姿。夫がお参りに行って撮った一枚)

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羊水の元になる一つに胎児のおしっこがある。18週に入った頃には「おしっこたくさん出すから、羊水増えるといいね!」と看護師さんが励ましてくれた。

担当の看護師さんは毎日変わるけど、多くの看護師さんが励ましの言葉や世間話をして気を紛らわせてくれた。

赤ちゃんたちのために何もやってあげられない、と弱音を吐く私に

「今は何もしないことが治療だよ」

「赤ちゃんの生命力はすごいんだよ。信じて待とうね」

「不安はためないほうがいいから、少しでも気になることがあったら言ってね」

と寄り添ってくれた。

20週を迎えた日の担当看護師さんは「20週だね! 弱音も吐かないで頑張ったね」と一緒に喜んでくれたし、別の日に担当してくれた看護師さんは「入院した時は胎盤がもうすぐ完成ってときだったのにすごいよ!」と微笑んでくれた。

入院当初は励ましの言葉を素直に受け入れられなかったけど、20週を過ぎると不安よりも希望が大きくなって心から嬉しく思えた。

相変わらず羊水は毎日流れ出る。出血も、止まったかと思うとまた出てくる。

でも、もうすぐ22週。21週と22週では、人生が変わるくらいの違いがあるのだ。


突然の破水、入院、出産、成長……小さな息子たちとの日々を不定期で書いていきます。

不安で先が見えなかったとき、ブログやSNSにつづられたみなさんの体験談がとても支えになり、参考になりました。一つ一つケースは違うけれど、私の経験も誰かのお役に立てるとうれしいです。

(と言いつつ、自分の心の整理のためも書いています)



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