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Scatteredの季節がきた ~3文字の言葉からはじまる物語

(※歌詞の解釈はあくまで私個人の主観であり、作詞者およびアーティストが本来意図したものとは違う可能性があります。あくまでオタクのひとつの解釈として受け取ってくだされば嬉しいです)


12月に入って一気に寒くなってきた。
私の住んでいる地域でも山の方では雪がちらついていたらしくそんな季節に聴きたい曲がある。

私が推しているグループ、OWV(オウブ)に「Scattered」という曲がある。
OWV2枚目のシングル「Ready Set Go」のカップリング曲だ。
どういう曲なのかはまずは聴いていただくか見ていただけたら嬉しい。


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scattered」は動詞「scatter」の過去形、または過去分詞で「散り散りになった」「散らばっている」「バラバラになっている」などの意味がある。

OWVの「Scattered」をはじめて聴いたとき、もちろんそのメロディの切なさや美しさ、“推し”たちのはじめてのバラードを歌う歌声などにも惹かれたが1番に思ったのはこの作詞者さん(H.U.B.さん)は天才だなということ。


「Scattered」の歌詞はいきなり『なのに買ってしまった』からはじまる。
(厳密には『I am I am scattered scattered~』というコーラスの歌詞がその前に入ってはいるが)

「なのに」という言葉は不当の接続詞と呼ばれ、普通は前提条件があり、それにも関わらず前提条件から想像される結果と違うことになっているときに使われる言葉だ。

「お金がない。“なのに”買ってしまった」とか
「必要がない。“なのに”買ってしまった」など。

何か前段に前提やストーリーの提示があってそこでようやく「なのに」という言葉が使われるのが普通だ。

だって友達から電話があっていきなり「なのに買ってしまったんだよね~」から会話はじまったらかなり怖い。
相手がヤバいのか、自分の直前までの記憶が消し飛んだのか、とにかく不安になる。

だけど天才H.U.B.さんは違う。そんな常識に怯まない。

「なのに買ってしまった」の最初のフレーズできっと主人公は本来買う必要のない、あるいは買うべきではないなにかを買ってしまったんだな、と当然リスナーは思うだろう。

なぜ主人公は買う必要のない、あるいは買うべきではないものを「買ってしまった」のか。
一瞬にしてリスナーの想像からそれぞれの物語が広がりはじめる。

「なのに」というたった3文字の接続詞が放つ言葉の力と聴き手の想像力を信じて書いているんだなと感じた。


『なのに買ってしまった 僕の好みはBlack Coffee  甘いSugarはいらない』
“前提条件”はこのあとに出てくる。
主人公はブラックコーヒーが好きで甘いコーヒーは本来好きではないのだ。
それ“なのに”おそらく主人公は砂糖の入った甘いコーヒーを買ってしまった。なぜか。

『It's a bad habbit』
habbitはくせとか習慣を意味する。
bad habbit=悪いくせ、そう分かっていながらも買ってしまった甘いコーヒー。
ということは今までも誰かのために何度も買っていたか、いつもそれを買う人のすぐそばにいたのだろうか。

『口移しで伝えるラテが意地悪だBaby
答えないで僕にどうしろというの?』

Babyと呼び掛けてることからもおそらく恋人など近しい関係にある人(あった人)、愛おしい人の存在が浮かび上がる。
また「口移し」という言葉でよりリアルな関係性が想像できる。
しかしそのあとの「意地悪」や「答えないで僕にどうしろというの?」というフレーズでなにかそこに横たわる空気感や関係性のいびつさをほんのりと感じる。

『あなたの味が残ってるよ 僕の唇』
きっと甘いラテを飲んだ恋人と思しき人と口付けをした、その味と記憶がずっと主人公の中に残っているんだなとわかる。

そしてここで冒頭の『なのに買ってしまった』の歌詞が生きてくる。
甘いラテが好きらしい恋人かそれに近い関係性と思しき人はもうきっとここにはいないのかもしれない。
あるいは物理的には近くにいても関係性が良好ではなくなったのかもしれない。

それとも「口移しで伝えるラテ」は過去の話ではなくリアルタイムであって、関係性が変わりつつあるのに思わせぶりな相手の「意地悪」に翻弄されているのだろうか。

それ“なのに”買ってしまった…
長く一緒に居すぎて本当に「ついクセで」買ってしまったのか、僕の唇に残る甘いラテの記憶を忘れたくなくてなのか。
主人公の気持ちはきっとまだ相手に向かっているのだろう。

最初のフレーズがそれぞれの思い描く情景の輪郭をより濃くしていく。

このあとサビ前には「ベランダ」「Midnight」「雪」などより具体的な状況が出てきて、主人公の視点からの風景が描かれている。
主人公の心情は描かれていないのにその切なさ、寂しさがなぜか伝わってくる。

肌寒い夜のベランダ、孤独を襲う闇と音もなく僕に降る雪。
思わず買ってしまった甘いラテはまだ僕の手にあるのだろうか、それはまだ温かいのか、それとももうすっかり冷めてしまっているのか。
いろいろなことを想像してしまう。

もっと言うと、街が空を飲みこむとは、逆さまになって降る雪とはどういう状況なのか。
主人公である「僕」の心情を描いた比喩なのかもっと直喩的な意味なのか……

ここから先に描かれる情景についての解釈の話はいつか同じOWVファンの友達とじっくり話したいのだが、あまりに具体的な自分の解釈をここで書いてしまうと読んだ方に同じイメージを植え付けてしまいそうなのであえてここでは書かないことにする。


サビに入ると今度は『I don't know why ひとり寒い夜に』『温めてほしいよ』『今も会いたいあなたに会えない』などの主人公の心情が一気に溢れるようなフレーズがいくつも出てくる。
そしてタイトルにもなっている『I'm scattered(バラバラになった)という言葉がリフレインする。


詞の話からは逸れるが、冒頭からサビ前までは佐野、本田、中川の3人で歌割りがされておりOWVのもう1人のメンバー浦野の歌声はなく、サビでようやく浦野の歌唱パートになる。

どちらかというと中音~低音域が多めのサビまでから、一気にサビで『I don't know why』と浦野のガラスのように繊細なハイトーンボイスが美しくそして切なく溢れる主人公の心情を訴えかけてくるように響き、よりこの曲の世界観を作ってるように思えた。

OWV「Scattered」歌詞  /歌ネット

ちなみに同じOWVの作品で言えば「Fifth Season」も「Scattered」と同じH.U.B.さんの作詞。
こちらは「Scattered」とは真逆で愛おしい人と『これからの季節 (中略)ずっと思い出作ろう』と永遠の愛を語る甘い甘い歌。

H.U.B.さんがご自身がインスタで「日本の美しさを意識してみた」とおっしゃるように、四季折々の自然の情景が鮮やかに浮かぶ素敵な詞です。



OWVとは?




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