名取 里美 Satomi Natori

俳人。1982年、山口青邨、黒田杏子に師事。 句集『螢の木』『あかり』『家族』『森の螢…

名取 里美 Satomi Natori

俳人。1982年、山口青邨、黒田杏子に師事。 句集『螢の木』『あかり』『家族』『森の螢』。 共著『鑑賞 女性俳句の世界』『東川町 椅子』『富山の置き薬』。 ラ・メール俳句賞、藍生賞、駿河梅花文学大賞受賞。 俳人協会幹事。鎌倉ペンクラブ幹事。日本文藝家協会会員。

最近の記事

再来、村越化石

角川『俳句』6月号に、『生きねばや 評伝 村越化石』(荒波 力著 工作舎)の書評を寄稿しました。   生きねばや鳥とて雪を払ひ立つ    化石 わたしが俳句を始めた1980年ごろ、村越化石は俳壇のスターでした。 ハンセン病の治療薬で失明となっても、秀句を詠み続けた村越化石の人生を辿りながら、作品と心情や信念に迫る高著です。 俳人 村越化石の生誕百年。わたしは村越化石の再来を歓びます。         ★         ★         ★

    • 黒田杏子先生を悼む

      先生は今年の初桜をご覧になれたのだろうか。 今や天上から日本列島の桜をながめておられるのだろうか。 なつかしいご家族や先達とお話が弾まれておられるのだろうか。 わたしは花散るなかに、淋しく、心許ないばかりです。 十九歳から杏子先生に学ぶことができた果報者のわたしは、先生の作品やお言葉を大切にして、これからも歩んでゆきます。 杏子先生、ありがとうございました。 どうぞこれからもお見守りください。       ★       ★       ★ 名取里美の俳句の魔法

      • 井崎正治 あそびの時間と小さなかたち

        木工作家の井崎正治先生の展示会に伺いました。 拙句集の『森の螢』の表紙に、井崎先生の作品を使わせていただきました。 そのご縁での井崎先生との久々の再会でした。 久々と言っても、二十年ぶりぐらいというご無沙汰です。 井崎先生の作品を二十年ずっと、身近に飾っているから、久々と感じてしまうのかしら。 会場は、銀座の教文館の4階です。 木工作品は、人形、うるし塗りの食器、盆・トレー、椅子、靴べら、額、カード立てなど、素敵な作品ばかりでした。 すべての作品からほっこりあた

        • Anti-war HAIKU

                                Satomi Natori (Haiku poet) For a while I look up at an autumn butterfly at the epicenter Satomi Natori A white butterfly suddenly flew up into the blue sky. Its afterimage still rema

          反戦の俳句

             しばらくは秋蝶仰ぐ爆心地      里美 ふいに白い蝶が青い空に飛びあがった。その残像は、今も私のなかにある。この句は、二十七歳のとき、はじめて訪れた長崎で句帖に書いた。 この句が令和四年度から、高校の国語教科書『新編言語文化』と『精選言語文化』に掲載された。掲載の知らせが来たのは、コロナ禍になる少し前だった。文部科学省の検定前で、出版社から句の掲載を内密にするように頼まれた。 突然の知らせに驚いたのはいうまでもない。第二句集『あかり』に収めた昔の一句なので、拾

          停戦と眠り

          しとしと雨の日が続く。まさに菜種梅雨。 つきあたりの畑に二列の菜の花。黄色がこころをぽっと明るくしてくれる。 雨がやんで、 青空がひろがると、 菜の花の黄色は、ウクライナ国旗の黄色となり、途端に悲しい色となる。 マネが描いたこの戦争のデッサンは、「Civil War」という題名。マネは1870年の普仏戦争で、首都防衛戦に加わった。 戦争に色を重ねることは、マネにとって、拒絶したいこと、 許しがたいことだったのだろう。怒りと悲しみのモノクロームである。 一刻も早く、停戦にな

          わが家の山桜

                   わが家の濡縁の端に一本の山桜がある。鳥が実を運んだのか、自生した実生の桜である。狭庭の光を求めるように、するすると伸びた幼木は、庭の真ん中に奔放に枝をひろげる若木となった。ただ、かなしいことに、肝心の桜が咲かなかった。冬芽があらわれると、桜の蕾かと毎年期待するのだけれど、若葉が茂るばかり。いつまでも葉を楽しむだけの桜だった。  ひかりそむ櫻紅葉や朝ごはん   里美『森の螢』 訪ねて来た義父が「家に近すぎるな」とこの桜に驚いていた。桜の根が家の基礎を押し

          わたしの一句が教科書に

          新学期。手にした、新しく、ぴーんと張りつめた国語の教科書をひらいて、わくわくして読んだ昔。 その学年年齢にふさわしい作品が選ばれているからだろう。どの作品からも、文学のエッセンスがふわふわ漂ってきて、幼いながらにうっとりと読んだ。 教科書の日本の文学に触れつつ、学びつつ、子供の心に、日本人としてのアイデンティティが自ずと形成されていったような気がする。  しばらくは秋蝶仰ぐ爆心地     名取里美 この一句が、高等学校の国語教科書『精選言語文化』と『新編言語文化』に掲

          わたしの一句が教科書に

          月を仰ぐ

          ささやかな人生の或る時を俳句に詠む。俳句に詠んだおかげで、その或る時が、後々、映画のように私には甦ってくる。 月を仰いだ私の或る時を辿ってみる。   照る月の胎児に腹を蹴られけり  『あかり』 流産、早産の危機を乗り越えたときに詠んだ句。月を詠もうと庭で月を仰いでいるとき、膨らんだお腹を胎児にぽんと蹴られた。 胎児は月光を感じるのだろうか。出産はやはり満月の日だった。その子も無事生まれれば、   庭先の子供は月を見て飽かず   『あかり』 幼い目にも、月の光は不思

          日本文藝家協会推薦入会

          ようやく梅雨入り、と思った日に、大きな封書が届きました。 日本文藝家協会 理事長 林 真理子氏からで、推薦入会のお勧めでした。 推薦理事のお名前に俳人の大串 章氏と歌人の篠 弘氏のお名前が記載されていました。 日本文藝家協会の名前は、昔から見聞していましたから、実体はよく知らないけれど憧れていた自分に気づきました。 先日、NHKに出演の林 真理子氏のトークから、作家たるパワーに圧倒された瞬間を思い出しながら、ありがたく、入会の申し込み書を書きました。 なにかいいこと

          日本文藝家協会推薦入会

          読売新聞 俳句題詠「慈雨」

          昨日、6月11日の読売新聞夕刊の2面に、「慈雨」をテーマにした五句を寄稿しました。 走り梅雨のような日を選んで、久々に雨に濡れながら吟行しました。 締切日まで、晴れの日の方が多く、雨の句に恵まれませんでしたが、ある雨の晩、出歩くと、ふわっと飛んできた鳥が電線に止まりました。なんと、まん丸い頭の青葉木菟のシルエット!初めて見た青葉木菟でした。すぐに飛び立ってしまいましたけれど。 まだ、青葉木菟の声は聞こえてきません。。。 歌人の時田則雄先生の作品も掲載です。読売新聞夕刊

          読売新聞 俳句題詠「慈雨」

          角川『俳句』5月号

          遅ればせながら、この号に拙句12句を寄稿しました。 原稿締切は3月19日だったのですが、このコロナ禍ですから、遠出もできず、近所を吟行してあれこれ作句していました。これでいいかなあと、拙句をまとめていた3月11日、突然、義父の訃報が。急きょ、葬儀のために諏訪まで出かけました。 義父は諏訪湖のほとりの施設に暮らしていました。そばに居てほしいと願いましたが、自らの意志で都内から諏訪へと移転していました。フランス文学者で都立大教授でした。東大ではバイオリンを抱えた星新一氏をよく

          角川『俳句』5月号

          タビハイ 巴里居候雑記

          堀切克洋氏が運営する俳句のポータルサイト「セクト・ポクリット」。 その中の企画、「タビハイ」ー旅する俳句 旅する俳人ー に寄稿いたしました。 旅に出かけ難い昨今、すこし前のできごとですが、すこしの旅気分をどうぞ!              ☆              ☆              ☆

          タビハイ 巴里居候雑記

          伊勢に生まれて

          井上弘美主宰の俳誌『汀』に「わたしと着物」というエッセイの連載がある。『汀』3月号に、私も書かせていただいた。 タイトルは、「伊勢に生まれて」。私の祖母、母、私と三代の女たちは伊勢に生まれた。祖母と母は伊勢に育ち、私は、十代までの夏休みを伊勢の祖父母の家で過ごしてきた。伊勢は私のこころの故郷なのである。 思えば、わたしのささやかな着物は、すべて祖母と母の見立てで選んだものであった。 伊勢の神領民としての生活、祖母の着物への愛着などから、着物のエピソードを綴った。 私の

          伊勢に生まれて

          京都新聞 俳句はいま 2021.2.8

          神野紗希氏による『森の螢』のご鑑賞文が、京都新聞に掲載されていた。 奈良の句友から、お知らせいただいた。 神野氏は、『森の螢』を「世界と交歓する祝祭」という視点から鮮やかに論じられていた。 名取里美は第四句集『森の螢』で、社会、世界、私のトライアングルを組み上げた。(中略)                               〈ふりしぼる終の光を青螢〉〈奥へ奥へ闇ひらきゆく螢かな〉。現れては消える蛍は「コロナ禍に右往左往する間も、森の営みは変わらず、厳かにつづい

          京都新聞 俳句はいま 2021.2.8

          句集『森の螢』Kindle版発行!

          2020年の11月に角川書店から刊行した拙句集『森の螢』。 おかげさまでご好評につき、このたび、Amazon Kindle版をリリースしました。 https://www.amazon.co.jp/dp/B08X2FRZJF/ref=mp_s_a_1_16?dchild=1&keywords=句集&qid=1613870083&s=digital-text&sr=1-16 実は、この本は書店流通していませんでした。 角川「俳句」編集部(☎04-2003-8716)でしか

          句集『森の螢』Kindle版発行!