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居候してみて見えた、カトマンズの暮らしの裏側

共同生活と個室の南京錠

今井 前回からちょっとイレギュラーですが、極地建築家として世界の暮らしを見続けてきたフィールドアシスト代表の村上さんをゲストとしてネパールの話を聞いています。
前回は、2015年にネパールであった大震災の後、現地の村に入ったお話を聞きました。今回はネパールの人たちにとって家ってどういうものなのか、どういう暮らしをされてるのかというお話を伺いたいなと思います。
村上さんは、以前この番組にも出ていただいたカトマンズでガイド会社をするサティスさんの家に一時期滞在というか、居候されてたって伺ったんですけれども、どういうきっかけで滞在してたんですか。

村上 そうですね、居候って言うとちょっと大げさかもしれないけど、サティスのところで遠征に行く前後に、準備とか、フライトの条件が整わないと飛べなかったりするので、数週間サティスの家に泊めてもらうことが何度かあったんです。カトマンズにはリングロードっていうぐるっと回れる道路があるんですが、サティスの家はその外側なので、いわゆる街の中でも観光客が訪れないような生活圏内に家があります。
コンクリート建てで、3階建てかな。それプラス屋上みたいなのがあるような、典型的というよりかはちょっと良さげな感じの家ですね。サティスはそこが家兼事務所であり、自分たちの遠征の装備がたくさんあったりとか、常にスタッフも出入りするような場所になります。
お父さんとお母さんが一緒に住んでいます。ネパールでは自宅兼オフィスにしてるが多いように見えますね。

今井 サティスさんはそこで普段どんな毎日を過ごされてるんでしょうか? 建物内で家からオフィスに「出勤」ですか。

村上 いや、もう結構そこはあいまいです。スタッフの人たちも「家」の中に入っていたりとか、オフィスと家の線引きは奥の奥まで曖昧です。ただ面白いなって思うのは、どこの家にもどの部屋にも鍵がつくんです。それも結構ごつい。いわゆる南京錠みたいのがいたるところにがっつりついています。それこそカトマンズの街に行って、シャッターが下りた後って、これでもかっていうぐらい鍵が一つのシャッターの下に10個ぐらい、ちょっと大げさじゃない?というくらいつけるんですよ。
サティスもそれだけ人が出入りするからかもしれないし、入ってほしくない部屋なのかな、とにかく個室には鍵がついている。鍵がついてなければ結構みんな出入りする、というような感じです。

まあ泥棒も結構多いというのもあるし、家の前には人の身長より高い塀が立っていて、塀の上には、割ったガラスが散りばめられて埋め込まれてたりとか、そういうのを見ると、治安という意味では、そんなに良くないし、「鍵を閉めないで盗まれたら自分のせいだよね」みたいなところもあるかなっていう気はします。

僕が大体泊めてもらうのは、屋上にちょっとした人が泊まれる小屋みたいなのが建っているんですけど、その部屋を借りる。ただゆっくり寝てる感じでもなくて、まず夜からカエルの声がすごいんです。まあまあ都会なんですけども、尋常じゃないカエルの大合唱です。

そして朝になると今度はまだ薄暗い頃からお祈りの声の大合唱が始まります。鐘が鳴ったりとか。そうすると下に降りていって、大体キッチンが1階にあるんですけれども、キッチンでサティスのお母さんが作ってくれる朝ご飯を、キッチンの中にあるテーブルで食べさせてもらいます。
サティスの家はキッチンが広いです。日本のいわゆるマンションとか、何LDKとかいう間取りで言うんだったら3倍ぐらいあるイメージですかね。

実はすごく水事情が特殊で、綺麗な水を車で運んでくるんですよ。ネパール語で水って何種類かあって、チソパニ、タドパニ、パニ、ミネラルウォーターとかいろいろ言うんですけど、やっぱり水を原因とする病気もやっぱり多いんですね。
まず山奥の綺麗なところから取ってきたのかな、ちょっとそこまでわかんないすけど、とにかくまず町まで持ってくるんです。でもそのままでは飲めないんです。各家にはタンクがあって、そこでろ過するんです。地元の人たちはそのろ過したものはもう飲みます。でもサティスには、「お前はそれは飲んじゃダメだ」と言われます。多分日本人はおなかをこわすからです。それを飲むときは、一回沸騰させて飲みます。沸騰させた水をタドパニっていうんですけど、そのままだとお湯ですよね。それを冷やして飲むのがチソパニって言うんです。
だから水が欲しいと言っても、何が欲しいんだってちゃんと言わないといけないんです。

今井 どのレベルの水なのかということですね。

村上 はい。そういうのがあります。だから、当然蛇口をひねればシャワーとか出るんですけど、飲む手前の、別に汚れているわけではなく、透明な水ですけど、そういう水なんだっていうことはわかんなきゃいけないです。歯磨きするときも、そうなんだって理解する必要はあるかなと思いますね。

今井 食事は、ニレカのスタッフのメンバーもみんな一緒に食べるんですか。

村上 全員揃っていただきますっていう感じではないですね。山の中でもそうなんですけど、サーブしてくれるスタッフの人たちは一緒にご飯食べないんです。ガイドすべきお客さんである人たちをまず食べさせて、おもてなしをして、完了してから自分たちが今度は食べるっていう順番を踏むので、それがもう根付いているというか普通なのです。これは想像でしかないですけど、多分子供がいたとしてもまず子供を食べをさせ終わってから、お母さんご飯食べるとか、ちょっと多分時間差はある気がするんですよね。
というのも、食べるという口に入る過程の中に、全て出来上がったから食べますよというよりも、作りながら食べていくみたいな感覚もあるんです。これは日本とちょっと違います。カトマンズという都会であっても日本と違うなって思うのは、さっきの水の話じゃないですけど、所々に口に入る、体に取り込むまでに、何か一つ工程を足さなきゃいけないので、そこに人が必要だったりするんです。

今井 スタッフとお客さんっていう違いが先ほど食事ではすごくわかれてるっていう話がありましたけど、行動していく中でもやっぱりそこは明確な分離みたいなのがあるんでしょうか?

村上 明確に分離が、その瞬間瞬間を見れば明確ですし、例えば日本からヒマラヤのエベレストみようツアーみたいなのが、ポーターさんとかガイドさんを雇って連れて行くと、一つ一つのそのコテージやホテルにも、お客さん用の部屋とスタッフ用の部屋がわかれてるんです、完全に。
スタッフ側の部屋は相部屋というか雑魚寝みたいな感じで、いろんなツアーのスタッフたちが生活する。ご飯のときも大体コテージだと食べる専用の場所があることが多いんですね。でもスタッフの人たちがそこで食べることはほぼなくて、キッチンの中で食べてたりとかしますよね。
だから結構明確にわかれてるし、バックヤードは見えてこないという感じはありますね。

公私や、家族のありかたの違い

今井 ネパールの人たちの暮らしは、前回、すごく家族的というか、血の繋がりのあるファミリーだけではなくてスタッフも含めた、一体感みたいなのがすごい強いなっていうふうに感じたんですけれども、村上さんはネパールの暮らしってどういう特徴があると思いますか。

村上 サティスが言ってくれたことであるとか、今井さんが言ってくれたことってその通りだと思うんですけど、ただその意味を日本の家族っていう意味を重ねちゃうと多分誤解が生じるんだと思うんですよ。ちょっと別の話になるかもしれませんが、これサティスの会社じゃない話も含めてなんですけど、日本からいろんな人を連れて旅行をプランニングするとするじゃないですか。僕は日本にいて、現地のスタッフの人たちがネパール側にいていくら連絡を取り合っても、全然プランが決まらないんですよ。
例えば日本の旅行だと、旅行行程表で時間まではさすがにアバウトだったとしても、大体何をやるかってのはどこに泊まるかっていうものを、ざくっと出すし、それを元にいくらみたいなことが決まったりするじゃないですか。

今井 そうですね。

村上 全然決まらないんですよ。とにかくおいでよ、なんです。

今井 えー!

村上 行くと、いわゆる決めたというか、何も決まってないんですが、とにかく現地ではもうどんどん、どんどんやってくれるんです。細かいところから。
家庭という意味で違うんですけど、日本と大きく違うのが、人件費ってものの考え方が全然違うんです。人件費はほぼタダみたいな感覚なのがネパールです。ただ、物を買うことに関しては、ものすごくこまかく、ビニール袋一つとっても、物を買うっていうと値段がついてる。
だから、物を買うには費用が必要だけど、それを使ってサービスをする人件費はタダみたいな、そんなふうに僕にはちょっと感じる部分があるんです。だから向こうに行ったら、こんなことまでしてくれるの、こんなことまでやってくれるの、みたいなところがあります。たとえば物を持ってもらうことも含めて、もちろん最後にチップみたいので返したりもしますけれども、そこを背景にすると、家族みたいなところでも、いわゆるその全てが境目がなくて、がっちりしたっていうよりも、やっぱり線引きがある中で、そこをベースにしてあとはもうとことんできるものは一緒にやるというか、関係を築いていくっていう中でのスタッフであり、街の人たちであり、家族でありっていう、いろんな単位があると思っています。
村をみれば、未だにやっぱりカーストみたいなのが残っているんですけど、カーストというとなんとなく僕らは駄目だよというか、みんな同じレベルに合わせなきゃいけないと思いがちなんですけど、でも長く培われてきたものだからとか、必ずしもそれがいいというふうには言いませんけれども、やっぱりその中での役割分担という意味での表現が、たまたまカーストっていうところに見える部分が少なからずあるんです。

今井 これまでの門谷JUMBO優さんの話もそうでしたけれども、ネパールの人たちにはすごく包容力というか、受け入れる力みたいなのがあるという話にも通じる話なのかなと思って、そこがネパールの一つの大きな魅力なのかなっていうふうにも思いました。

村上 包容力という意味では、包容力でありつつ、諦めでもある気がするんですよ。常に厳しい自然も然りですけど、いろんなものが思った通りに動かないところをまず諦めて、受け入れる。その中でしっかり生きていくために、周りに周囲にいる人たちを包み込むとか、一生懸命包容力を持って生活しているという意味だと思うので、必ずしもいろんな色みがあるような気がしますね。

今井 それはネパールの魅力でもありつつ、一つの現実でもあるっていうところなのかもしれないですね。

村上 そう思います。

(文・写真 ネイティブ編集長・今井尚)

次回のお知らせ


ネパールについてじっくり掘り下げてきたラジオネイティブ。次回はいよいよこれまでのまとめをしたいと思います。それぞれ異なる角度からネパールについてみてきた話の中から、ネパール人たちの持つ暮らしの知恵について迫ります。
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