見出し画像

【読むラジオ】#012 モードを切り替えて、力を抜こう

村上)前回、「別々の場所にいるけれども一体になって仕事をされている、そこに境目はないんだ」とおっしゃっていましたが、そうだろうなと思いつつ、逆に仕事では一体だったとしても、山村さんは仕事が終われば家に帰って家庭という場所がある。一方、宇宙の現場はそこが全部一体になっているわけです。どうしてもリズムは一致しないと思うんです。仕事と生活が境目がないような状況の中で、宇宙で半年くらいのミッションをどうされてるのかなと思いました。

山村)確かにリズムと言われると難しいですね。宇宙ステーションはずっと飛んでいるわけで、やっぱり気になっちゃいます。特に最初の頃は気になっちゃいますけど、そこは切り替えるようにしています。
例えば管制官であれば、3シフトなどで回していて、そこに入るとき、朝礼みたいな感じで、一度区切りをつけるタイミングがあります。「ここから自分たちは役割と責任を持つんだ」というように、区切りを付けています。

村上)よく CM とかで「やる気スイッチ」とかそういう言葉ありますよね。そういう区切りのスイッチっていうのは大事なものなのですか。

山村)「オンコール」というポジションもありまして、役割としては、何か緊急時になった時に電話を取って対応する、そういう当番もあるんです。自分が今、何の役割なんだろうというところを明確にして、オンコールでも何でもないときは、いったん忘れるようにします。

村上)それは、あえて、がんばって忘れるということですか?

山村)そうですね、最初のころは「頑張って忘れる」なんだと思います。

村上)今「最初のころ」という言葉が出てきましたが、10年前に初めて山村さんがこの仕事に関わった時の印象や、そして10年以上たってみて、次の後輩とか新人の方とかが入ってくる時に、今だから山村さんがその人たちに伝えることといえば、どんなお話しをされるんですか?

山村)そうですね、最初にこの世界に入ると、かなりの部分で「安全」という言葉をキーワードにいろんな話をします。こんなことに気をつけなきゃいけない、どんなことがハザードなんだ、そういった安全や危険についてすごく教育を受けるんです。
危険にならないように、もし緊急時になった時に適切に対応しなくてはならないといった、常に緊張してるような、まるでドラマの世界のように何か起こるんじゃないか、みたいな世界に私も最初は感じていたんです。そして、それはなんかすごくかっこいいなという感覚もありました。

村上)実際はどうだったんですか?

山村)実際はそういう緊急的なことが起こることは、まれですよね。全く起こらないわけじゃないんですけど、起こるのは時々です。

村上)僕が思うのは、トラブルが起きたらそれは大変なんですけど、むしろそれが四六時中続いてくるほうが心がそれについてくる。逆に、 時々来るけどオフが長い状態の方が、すごく苦しいような感じがするんですけど、どうですか?

山村)まさに、そこが難しさだと思っています。時々来るから、その時に適切に対応できなきゃいけない。その心構えって結構難しいと思うんですよね。気を張りすぎてもいけないし、ゆるめすぎてもいけないし、絶妙なところでやっていかなきゃいけない。これって地上の管制官もそうですし、宇宙飛行士も同じですね。

村上)山村さんはそのペースが今はつかめたという感覚ですか?

山村)そうですね、ややつかめてきたかな?くらいだと思います。やっぱりしんどいなという感覚がまだありますので。でも何かあった時にモードを切り替える感覚は、少しつかみ始めたような感じがします。

今井)宇宙飛行士の ISS での滞在は何か月もずっと続くわけですから、山村さんも気持ちの切り替えをどうつけていくのかすごく参考になりました。
山村さんは10年 前からこの仕事をされてきたということなんですけれども、地上スタッフや運用管制官の仕事について何か印象の変化はありましたか?

山村)そうですね、管制官の方とか、宇宙飛行士も含めてですけど、とにかくテキパキ判断して、瞬時に誰かに指示を出して、そういう緊張感あふれる世界なんだろうなと、そういう人たちがいっぱいいるんだろうなと思っていました。実際に見ても確かにそういう人たちは多いなという印象は受けたんですけれども、運用も長くなってきて、ベテランの方とかですね、うまくトラブルなどに対処されてるような方々は、なんというか言葉で表現するのが難しいですけど「力が抜けている」んです。リラックスしすぎているわけではないけれど、力が抜けている。そういうところがあるなと思います。そういう人が、何か緊急的なトラブルが起きた時に、よく対処していると、私は印象を受けます。

村上)先ほど山村さんから「スイッチ」というキーワードが出たと思うんですけど、ベテランの方もやはりそういうスイッチを持っているんですか。抜けている時と緊急時の切り替え、線引きみたいなところがあるのか、あるいは全部一緒なのか、どうなんでしょう。

山村)よくまだわからないですが、モードを切り替えられるようになっていくのではないかと思っていますね 。
これは宇宙飛行士から聞いた話なんですけれども、宇宙飛行士も大きくモードが変わる瞬間があってですね、ロケットの打ち上げの操作をしている時と、長期滞在をしている時っていうのは、モードが全然違うんです。
打ち上げとか帰還の時というのは、ものすごく忙しく仕事をしなくてはいけなくて、トラブルもかなり起こりやすく、瞬時に判断しなきゃいけない。でも長期滞在に入ると、そのモードで入っちゃだめなんだそうです。そこで少しモードを落とす。だけれども、トラブルは起こるわけで、それが危機的な状況に陥る可能性だってある。それに対処できるモードということになりますね。

村上)僕らはコロナ禍を経験して一番難しくなったのは、そのモードの切り替えを自分でしなきゃいけなくなったことだと思うんですね。今までは会社に行きますとか、家に帰りますとか、遊びますとか、場所や空間の移動で切り替わっていたのが、リモートにしても友達としゃべっているのか、仕事なのか、なんか全部曖昧になってきてしまうみたいな辛さを、多分皆さん経験されていると思うんです。そういう方々に向けてヒントをいただけますか?

山村)いつモードを切り替えるタイミングなのか見定めること、ここが大切なのかなと思っていいます。多くの方は、何かあった時に一生懸命対応しようとしますね。でも、そんなにがんばらなくてもいいことや、まだそんなに危機的な状況じゃないかもしれないのに、なんか非常に頑張って対応し、ずっとそのままいってしまって疲れてきちゃう。そしてちょっと緩んできた時に本当の危機的な状況がやって来て対応できない、となりがちなんじゃないかなって思うんです。ですから、そこの見極めが非常に難しいと思うんですけども、大事じゃないかなと思います。

村上)今どういう状況なのか、あまり過剰でもダメだし、少なすぎてもダメだし、そのあたりのスケール感がすごく大事になってくるんですね。

今井)有事の時に全集中することはおそらく誰もが自然に行うことだと思いますが、ポイントはそうではないときのモードの保ち方だという点がとても印象的でした。完全にオフではないけれど、抜ける力はぬく必要がある。ぬいているけど、どこかで待機状態を維持する。村上春樹が何かの小説で「シートベルトをしめて」と表現していたのを思い出しました。

(文・ネイティブ編集長 今井尚)
(写真 NASA)

次回のおしらせ

ラジオネイティブ #013  「 大事なことは「電話」で決まる 」。ボイスループという開かれたコミュニケーションでやり取りする宇宙と地上。でも、本当に大事なことは、リリリリンとなる電話で話されるそうです。次回は、コミュニケーションの公私について考えます。

The best is yet to be,次回も、お楽しみに!

すぐに聞く

ラジオネイティブ#012「モードを切り替えて、力を抜こう」 は こちら から聞けます。

アップルポッドキャスト
https://apple.co/2PS3198
スポティファイ
https://spoti.fi/38CjWmL
グーグルポッドキャスト
https://bit.ly/3cXZ0rw
サウンドクラウド
https://bit.ly/2OwmlIT


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?