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ネパールの人たちと同じ目線で社会問題を解決したい


いま自分にできる恩返しとは

今井 前回からドキュメンタリーフォトグラファーであり、ネパールでザ サードアイ チャクラ フィールドバッグ ワークスというアウトドアバッグ作りをしている門田”JUMBO”優さんにお話を伺っています。今回もよろしくお願いします。

JUMBO よろしくお願いします。フォトグラファーのJUMBOです。

今井 前回はネパールでのカバン作りについて、山岳のプロとして、現場でのテストを重ねながら作っていらっしゃるお話を伺いましたが、そもそもこのカバンを作られる拠点がなぜネパールだったんでしょうか?

JUMBO そうですね。僕は学生時代から、ネパール、特にヒマラヤの領域に足を踏み入れるいろんなきっかけがあって、ネパールっていう国に対してすごく親近感を抱いてました。また、その過程でいろんなネパールのコミュニティの中に入り込ませてもらって、撮影活動をさせてもらうことで、今の自分のフォトグラファーっていう仕事の礎になったと思ってます。
当時はやっぱり、ヒマラヤを含めて、ネパールにあるものすごく美しい自然に心惹かれて、現地に通ってた部分があるんですけれども、同時に、カースト差別であるとか、貧困のために教育が十分受けられない、そういったことによる弊害で起きる社会問題も目の当たりにしてきたんですね。
いろんなコミュニティの中に受け入れてもらって、撮影活動をして自分の仕事を成り立たせてもらったっていうところを考えると、今こうやってフォトグラファーとして仕事ができているのは、ネパールのローカルの人たちのおかげである。できることなら自分ができる範囲で、彼らとの繋がりをずっとキープし続けたいという思いが、撮影で食べられるようになって、東京で暮らし始めてからもずっとそういう想いを持っていました。
その中で自分自身が彼らに対してできることっていうのは何かなって考えたときに、学校を作るとか、病院を作るとか、いろんなアイディアがありました。ただ学校を作るとなると、教育という、ある意味文化を現地に根づかせる、そこまでして一つのゴールになります。病院にしても医療っていう文化を現地に根づかせるって、ものすごく時間のかかる行為です。それをずっと続けていくだけの気力とお金と、また一方的に送り続けなきゃいけないとなると、それはあまりにも今の自分には重すぎます。どうしたものかなって考えたときに、自分と彼らがイコールの関係でいられるもの、それはおそらく仕事だな。仕事っていう立場なら、僕も一生懸命仕事をしたら、もしかしたらそれで自分の生活の一つの糧になるかもしれないし、また彼らも一生懸命物を作ることで、一つの糧になるかもしれない。うまくいくかどうかわからないですけど、ビジネスという関係性の中で彼らと繋がり続けることは、今の自分にもできることなんじゃないかなと思ったんです。そんなアイディアを得て、できることを探していたときに、カバンを作るブランドを設立して、彼らにカバンを作る技術を身につけてもらう。そういう方向性に行き着いたんです。

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村上 ということは、ネパールであることが、まずそこに必然としてあったんですね。でも実際スタートする構想を練り始めたときにカバンを作るとしても、特にその技術を最初から身に着けていた人たちにお願いしたわけではなくて、作っていく過程で一緒にその技術も育てている、そういうイメージですか。

JUMBO そうですね、実はネパールっていう国は、偽物のアウトドア用品作りがすごく盛んなんですね。ヒマラヤだとか、ジャングルだとか、外国人がいろんなネパールのアウトドアや自然を目当てにネパールを訪れるものですから、そういった人たち向けに、有名なアウトドアメーカーのバッジをつけた偽物をたくさん作って売ってるんです。そんなわけで、それなりに技術力がある職人はいるんです。
ただ、彼らにはオリジナルのものを作るっていうマインドとか、デザインをする能力とか意識とかそういったものは一切なくて、僕はすごくもったいないなと思ってたんですね。
偽物作りっていうのは非合法なことなので、どれだけ頑張ったところで、それを海外に持っていけるわけでもないし、自分たちが作ってる偽物のブランドの本家本元に勝負できるようなものを作ることもできない。
そうであれば、そういう技術を使って、僕がオリジナリティの部分を担うことによって、本当にネパールオリジナルブランドというものを確立させることができるんじゃないかなと。
それがブランドを設立するっていう構想の一番根源にあるものです。

ネパールが抱える様々なハードルを越えたモノづくり

村上 「たら、れば」の質問になっちゃうかもしれないですけど、ビジネスでっていうお話も先ほどあったと思うんですけど、実際ネパールで作ったっていうということですが、普通に作れちゃってるところがネパールのポテンシャルだと思うんですけど、ビジネスとして見たときでも、そこで実際開いてみて、手応えっていうのはありますか。それともやっぱり未だに別のところでやった方がもっと・・・みたいな意識が生まれてしまうもんですか。

JUMBO これはとても難しい問題ですね。ネパールっていう国は経済的にそんなに強い国ではないので、賃金であるとか、そういった部分においては、物を作るっていうことにはアドバンテージになり得る部分です。
ただ、同時にネパールには海がないので、物を作ったところで出す手段っていうのは飛行機しかない。また、そのものを作るための材料を輸入する手段も、飛行機しかないんですね。そうすると、どうしても作ったものが割高になる。
だから、安くてそこそこいいっていうもの作りっていうのは、おのずとできない国なんですね。
だから、高くても、ちゃんと人が納得して買ってくれるような高品質な物作りと、それに見合うだけのブランディングっていうものが必要だと思うんですね。僕らのブランドの中では、そのブランディングっていうものを、ネパールにしかない大自然ヒマラヤであるとか、ジャングルであるとか、そういったものを大いに利用してやろうと。
もの作りという部分に関しても、元々ネパールの人たちが商売として、偽物作りではあるんですけれども技術を磨いてやってきたことをもう少し広く、例えば貧困層であるとか被差別階級層とか、あるいは僻地出身でどうしても若くて手に職がない人たちに仕事を身に付けてもらって、職人を養成することで、自分たちのブランドをある程度量産に対応できるようにする。そういったところを目指してるところですね。

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村上 そういったなかなか難しい条件の中で成立させるっていうところを背負っているJUMBOさんからすると、ともすると、実際に出てきたものがその基準、ご自身が考えるクオリティに達しなかったときに、ついつい厳しくなってしまうものなのか、逆に厳しくしなくても自然と伸びていってるようなっていうことはそのあたりどういうふうに感じてますか。

JUMBO そうですね。基本的にはものすごく厳しく言ってますし、今でも自分の要求レベルになかなか達してくれてないものができてくることがあるので、常にそこは向こうの人たちと話し合いながら、いろんなことを進めているっていう状態ではあるんですけれども。
ただ、やっぱ一番最初にブランドをスタートするために、職人を養成する期間を2年間設けて、偽物のアウトドア用品を作るための密造工場から職人を2人ほどヘッドハンティングしてきて、手に職のない若い人たちにその技術を教えてもらうっていう期間を設けたんですけど、その期間中っていうのは本当にみんな怠けるし、全然時間通りに来ないいんです。ネパールの物作りというのは「1個作っていくら」の世界なんですね。日本だと、例えば会社員になれば、1個作ってインセンティブがもらえる場合もありますけど、基本的には、基本給っていう考え方が根付いてると思うんです。でもネパールには一切ないので、どうしても数をたくさん作ればいいんだろ?っていう世界になっちゃうんです。
だから見えないところですごく手を抜くし、ずるいことを何でもする。そういう文化だったので、それを是正するのにはすごく時間がかかりました。けれど、今はそういったことはどんどんどんどん減っています。基本的には、怠けないという文化が根付いていってるなっていう実感もあります。

村上 その根付いた理由をもし一言で言うんであれば、なんなんですか? 厳しかっただけじゃないような気がするんですよね。JUMBOさんが

JUMBO うーん。理由は彼らの学習ですかね。まず根本的に、僕らが日本で買うカバンのクオリティは、彼らには一番最初は理解されてなかったんです。ていうのは、日本でカバンを買ったら、どれだけ安いカバンでも新品で底が抜けてるものってあり得ないじゃないですか。でもネパールだったら、よくよくチェックして買わないと、安いもの買ったら、底が抜けてる場合もあるんですよ。そういう世界に生きてる人たちに、いくら「高品質」とうたって「これは外国に持っていって外国の人たちが使う、そしてそれなりに高いお金を払って買うものなんだよ」って口で説明しても、なかなか理解されないんです。
ところが時間をかけていろんなものを作って、ある程度時間がたって、いろんな人がカバンを使ってくれるようになったときに、あのカバン良かったよっていう意見とか、実際にカバン作ってる人たちを見てみたいっていうことで、工房を訪ねてくれる人だとか、そういった人たちが出てきて、そういった人たちの声とか、そういった人たちの姿っていうのも、向こうの職人が見たり感じたりすることで、だんだん意識っていうのが変わってきたってのをすごく感じますね。

今井 JUMBOさんのカバン作りの背景を通して、ネパールっていう国がかかえる問題点とか背景がすごくよくわかりました。次回もお願いします。
(文 ネイティブ編集長・今井尚、写真提供 門谷”JUMBO”優)

次回のおしらせ

次回も引き続き、山岳を専門とするドキュメンタリーフォトグラファーでありながら、ネパールでアウトドア用のバッグなどをつくるブランドを立ち上げた門谷 "JUMBO" 優さんにお話を伺います。なぜネパールでアウトドアバッグをつくるのかというお話を通して、ネパールの抱える問題や、門谷さんの向き合い方を聞きました。お楽しみに!

The best is yet to be!

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