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【読むラジオ】#014 宇宙で暮らしているという奇跡

今井)宇宙飛行士の管制官をされている山村侑平さん。今回は山村さんご自身についてお話を伺います。山村さんが最初にこの仕事を目指したきっかけは何だったんだんでしょうか。

山村)宇宙業界の人って、宇宙が好きだったり、宇宙飛行士になりたかったという人が多いと思うんですけど、私はそんなに宇宙に興味があったわけじゃないんです。人に興味があったんです、人間に。
もともと小さい時からスポーツ少年でした。でも、勝ち負けではなくて、パフォーマンスを上げるにはどうしたらいいんだろうかと思っていました。

村上)競技としては何だったんですか?

山村)陸上の個人競技をしていました。人のパフォーマンスがどう変化するか、なぜ悪くなったのか、なぜこの人はこういう時に良いパフォーマンスだったのか、そういうことにすごく興味があったんです。そして、宇宙やそういう環境に行くと、そのパフォーマンスが顕著に現れるんじゃないかと、そういう興味が最初のきっかけになりました。

村上)相撲でいえば「心技体」みたいなことがありますけど、パフォーマンスというのは必ずしも「体」だけではなくて心も技も含めてですか?

山村)そうだと思います。スキルだけじゃなくて、体も、メンタルもです。多分バランスがすごく大事なんだろうとは思ってました。

村上) 山村さんは宇宙に興味がないというわけではないと思いますけど、元々人間に興味があった「少し珍しいタイプ」ということですが、その後の10年間、いろんな現場でやっていく中で、それはどのように生きてきたとおもいますか?

山村)やっていくにつれて、より興味を持ちました。宇宙の世界に人が生活していくのはやっぱり難しいことです。一番の変化は、宇宙といっても宇宙飛行士だけじゃないということです。地上の管制官も含めて一つのプロジェクトで動いているので、全体を見て考えなきゃいけないので、地球もやっぱり宇宙の一部だよなと感じるようになってきました。

村上)この10年間には宇宙飛行士や管制官の先輩だったり、いろんな方に出会われたと思うんですけど、中でも印象に残っている人とか、この人のこういう背中を真似てみたいとか、そんなことはありしましたか?

山村)かつての上司にあたる人なのですが、日本とか JAXA の中で宇宙の事業をやっていると、このプロジェクトの成果は何だ?と問われることが結構あるんです。皆さん一生懸命どういう成果を出すのか知恵を絞って考えているんですけど、私の上司だった人は「人間がそこにいるだけですごいんだよ。それがもう成果じゃないか。宇宙で人が暮らしてるんだ。それが成果じゃなくて、何なんだ」という話をしてくれました。それを聞いた時に「そうだよな、そこに暮らしてるんだよな」と思いました。「宇宙で暮らしていく。人類の営みがもう宇宙まで来てるんだ」。そこを広げていくにはどうしたらいいだろうか、というふうに取り組んでいかなきゃいけないと考えるようになりました。

今井)山村さんは、話すことで相手のパフォーマンスを上げるには、何が大切だと考えますか?

山村)私はやっぱりメンタル面がやっぱり大きいと思います。気持ちと言うか、意識と言うか、それをどういう風に持つかというところかやっぱりパフォーマンスに一番影響しているんじゃないかなって思ってます。

今井)これまでたくさんの飛行士とやり取りをされてきたかと思うんですけれども、中でも一番印象に残ったコミュニケーションにはどういうことがありましたか?

山村)電話がかかってきた時ですね。何か相談をしたくて電話がかかってきた時に、これはもう宇宙の世界に踏み込んだというか、私も一部になってきたのかなと、そんな感じがしました。

今井)その時はご自身でうまいフォローができたんでしょうか?

山村)相談に乗って、ある程度そこで、なんとなくの道筋が見えた経験があって、電話のツールってこんな感じなんだな、大事だなと気づいた瞬間でした。

村上)この4回に渡ってお話を伺っていく中で、やっぱり宇宙が好きというわくわくから始まる方もいれば、人間に興味があったという山村さんもいますが、共通するのは「命を預かっている」ことだと思います。命というのは心臓がドクドク動いていることだけではなく、「人がそこに生活してるんだよ」という先輩の言葉にもあった通り、本当にそこに人間の暮らしができつつあるなかで、ふと怖いなと思うときもあったんじゃないかなと思うのですが、葛藤や悩んだことなどはありましたか?

山村)あまり悩んだことまではないですけど、どちらかというと、そこは本当は壁の一枚外はもう真空みたいな世界で、非常に危険な世界に人がいるっていうことを、ずっとやってると忘れそうになるんですけど、危ないまではいかないですけど、気をつけなきゃいけないなっていう瞬間はあるので、そういう時はハッとさせられますね。

村上)山村さんは管制官の方にはこういう人が向いてるとか、もしかしたら全く別の仕事なんだけど、意外とこういう仕事の人がこっちに来るとすごくいいを働きするんじゃないだろうかとか思うような事はありますか?

山村)あまりがんばりすぎないと言うか、自分の役割をちゃんとまっとうしようとする人がいいんじゃないかなと思っています。引っ張りすぎないというか、リーダーシップを取りすぎる必要はないんです。それは宇宙飛行士であれ、管制官であれ、あるんじゃないかなと思います。

村上)これから選ばれた宇宙飛行士だけじゃなくて、旅行者も宇宙に行く時代が来ますよね。そうすると、これまでのやり方がもしかしたら通用しないことも起きると思うんですけど、そういう時はどうしたらいいんでしょうか。リーダーシップだけじゃなくて、依存する人も宇宙に行くわけですよね、きっと。

山村)はい、今までのやり方が全然通用しない世界がやってくるんだろうなと思っています。なので、そんな多様性を受け入れられる人が必要です。そもそも宇宙業界って、常に変化しています。プロジェクト自体も今は 国際宇宙ステーションがありますけれども、そのプロジェクトもずっと続いていくわけじゃなくて、常に変わっていく。どんなものでも受け止められる、そういう多様性みたいなものが大事なんじゃないかなと思います。

今井)宇宙旅行に行くにはどんなことが必要ですか?

山村)いろんな人が宇宙に行けるようになると思っています。そうすると、今までにない管制がいっぱい生まれてくるんだろうなと思っています。いま我々がやっている仕事の中で、気づかない視点とか、気づかない問題とか、そういったものがたくさん出てくるんだろうなと思っていて、それは多分対応するのがすごく大変なんだろうと思うんですけど、ちょっと楽しみでもあるんですよね。今までの自分たちの価値観の幅がかなり広がると思うんですよ。なんかそういうのは楽しみだし、だから色んな人に行ける機会ができるといいなと期待してるし、そういうものを作っていけたらいいなと思ってます。

今井) 山村さん4回にわたって本当に有難うございました。宇宙で暮らしていることそれ自体がすごいことなんだっていうお話すごく印象に残りました。

村上)僕はお話伺っていて、僕もその新しい時代が来る「宇宙旅行時代」が来て、どんなことが起こるのか見てみたいっていう思いがあるんですが、とはいえ、見たくないこともあるんですね。起きてはいけないこともあると思うんです。その時にふと思ったのが、山村さんが地球側にいてくれて、僕が宇宙側にガイドに行って、僕と山村さんの間はちゃんとザイルで結ばれてるっていう自信を持って、その自信でもって宇宙旅行者たちをガイドできる、サポートできるってことができれば、面白いものが見えるかもしれないと思いました。どうも4回にわたってありがとうございました。

(文・ネイティブ編集長 今井尚)
(写真 山村侑平さん提供)

次回のおしらせ

ラジオネイティブ #015  もう一度見たい、あの風景を求めて。

NHKの報道カメラマンで、現在は熊本で災害のその後を追い続ける河村信さんにご登場いただきます。伝える、伝わるの関係や、伝えるために何を大切にしているのか、様々なお話を伺います。

The best is yet to be,次回も、お楽しみに!

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