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【ある話】「『どうして心の中を見せようとしないの?』」

その子は、メル友から始まり何回か逢った子だった
結構りりしい顔をした子だった
イメージとしては漫画「NANA」のナナと言ったら言い過ぎだろうか

モテる子で僕とメールしていた期間のほとんどの間 
彼氏がいて 別れては新しい男が彼氏になっていた

最後に逢ったときも僕は彼氏の愚痴を聞いていた

束縛されるのは嫌いじゃないけど 
束縛されすぎるのはイヤだと言っていた

そして、僕に聞いてきた

「どうして、ワタシを口説かないの?」
「何回も逢ってるのはイヤじゃないからでしょ?」
「ワタシ、●●さんのこと嫌いじゃないよ」

僕は彼女に答えた

「口説かれたいんならまずフリーになりや〜」
「うん、全然イヤやないよ 好きになれるかもな〜」
「分かってるよ だから逢ってるやん?」

僕の答に彼女は
「●●さんって絶対変な人やわ、今まで会ったことないタイプやわ」と
ソファに沈み込んだ姿勢で笑いながら言った

彼女と飲んでいて 三軒目のプールバーで、終電の時間をこえた

何ゲーム目かのナインボールの後で
僕は何杯目か忘れたビールを飲みながら
タバコを吸っている彼女に「泊まっていく?」と聞いた

彼女は顔をしかめながら 空を仰いでタバコの煙の行方を追っていた

少しの沈黙の後で 僕は「出ようか」と言葉を継いだ
彼女はタバコを消して 肯いた
そして バーを出て 駅とは反対方向へ 歩いた



夜が明けて 喫茶店でモーニングセットを一緒に食べ
仕事へ向かう彼女に 手を振り別れた後に 彼女へメールを送った

返事は来なかった

次の日に またメールを送った

返事は来なかった

その次の日に またメールを送った

そのメールに対しての返事の最初の文章を読んだときに 
「あぁ、またか」と思った

彼女と夜を越える前から
僕は彼女のことを多分好きになっていたと思う

でも 僕は言えなかった

言えないまま 僕は彼女から そのメールを受け取った
何回もおんなじことを繰り返してきた そのことを
また確認してしまったなと思った

そう思ってしまった時点で
僕はもう彼女に何も言えなかった



そのメールをもらった日と翌日に 
何通かメールのやり取りをして
僕が彼女に送った
「もうメールしてこなくてもいいで」という言葉が最後になった

それからは彼女には逢っていない

「ワタシは自分の心をさらけだして、そのせいで傷だらけになっても
 好きになった相手と深く関わっていきたい
 ●●さんは、そう思えないの?」

「相手をいたわる気持ちだけじゃ ホントの優しさじゃないよ
 ●●さんは、優しそうに見えるけど
 自分を見せようとしない分だけ 優しくなんかない」

そんな言葉たちだけが僕の中にのこっている

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