国葬を「国の儀式」に位置付けた平成12年の政府作成文書(逐条解説)の意味

9月12日に産経新聞がこの報道をしてますが、内容は9月6日に読売新聞が報じたものと同じです。

この事実の使いどころについて。

国葬を「国の儀式」に位置付けた政府文書の意味

政府が平成13年の内閣府設置法の施行前に作成した内部文書に、国葬(国葬儀)を内閣府所掌の「国の儀式」と規定していたことが12日、分かった。安倍晋三元首相の国葬(27日、東京・日本武道館)をめぐり、立憲民主党などの野党は国葬の法的根拠が乏しいと主張している。岸田文雄首相は「行政権の範囲」と説明しているが、国葬を国の儀式として執り行えるという解釈が、法律の施行段階から維持されていることが明らかになった。
内部文書は、同法が施行される前年の平成12年4月に政府の中央省庁等改革推進本部事務局内閣班が作成した「内閣府設置法コンメンタール(逐条解説)」。同法の内容を補足するためのものだ。
同法4条では、内閣府の所掌事務として「国の儀式、内閣の行う儀式および行事の事務に関すること」と定めているが、逐条解説には、「国の儀式」には①天皇の国事行為として行う儀式②閣議決定で国の儀式に位置付けられた儀式-の2種類があるとしており、②の具体例として「『故吉田茂元首相の国葬儀』が含まれる」と明記している。

https://www.sankei.com/article/20220912-FRMJZYGQUVJYJIHPV527VRZU6A/

これをもって「国葬の法的根拠がある」と言うための根拠とすることを否定するわけではありませんが、もともと国葬は内閣府設置法がなくとも閣議決定で可能だというのが行政法解釈の標準理解なので、そこはあまり重要ではありません。このことは何度も書いています。

そうではなく、国葬を内閣府設置法4条3項33号の「国の儀式」に位置付けたことが議会制民主主義に照らして適切な手続を経ていたと言えるか、という観点から考えた場合に、「国会審議を通っている」と言える…ということの根拠事実として使えるかもしれない、ということです。

法解釈の観点からは国葬制度と国葬実施に法的根拠があるとしても、議会制民主主義の在り方からして事前に議会=国会の理解を得るという手続を経るのが「立憲的」ではないか、という問題意識があります。

三十三 国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること(他省の所掌に属するものを除く。)。

確認ですが、「国の儀式」と「内閣の行う儀式」とで異なる規定ですから。

内閣府設置法案は平成11年4月28日提出、同年7月8日に成立、同年7月16日に公布されており、平成12年4月の逐条解説より前ですが、逐条解説に書かれていることは法案審理にあたって議員へ提示された説明資料をベースにしている可能性があります。

読売も産経も、この点には触れていませんが、もしもそうならば【民主的手続論】は完全クリアとなります。

それが無い場合にどう見るかは日本の議会制民主主義の在り方からどう考えるか、という話になると思います。

なお、「国会で明示的に議論されてなければ民主的手続を経たことにはならない」ということだと、敢えて無視して議事録に残さないという行動を取り、あとになって「あのとき何も議論してなかった!立憲主義に反する!」とか振る舞う事を是認することになるので、明らかに不当な考え方です。

国葬令と国葬

国葬令 ※原本の写本はこちら
第一條 大喪儀ハ國葬トス
第二條 皇太子皇太子妃󠄂皇太孫皇太孫妃󠄂及󠄃攝政タル親王內親王王女王ノ喪儀ハ國葬󠄂トス但シ皇太子皇太孫七歲未滿ノ殤ナルトキハ此ノ限ニ在ラス
第三條 國家ニ偉勳アル者薨去又󠄂ハ死亡󠄃シタルトキハ特旨ニ依リ國葬󠄂ヲ賜フコトアルヘシ前󠄃項ノ特旨ハ勅書ヲ以テ內閣總理大臣之ヲ公󠄃告ス
第四條 皇族ニ非サル者國葬󠄂ノ場合ニ於テハ喪儀ヲ行フ當日廢朝󠄃シ國民喪ヲ服󠄃ス
第五條 皇族ニ非サル者國葬󠄂ノ場合ニ於テハ喪儀ノ式ハ內閣總理大臣勅裁ヲ經テ之ヲ定厶

国葬令は失効してますが、その理由は「特旨」「勅裁」といった手続が現行憲法と相いれないからであって、国葬制度それ自体が現行憲法と相いれないという理由ではありません。

また、一覧してわかるように、大喪儀も、皇族方の葬儀も、それ以外の「国家に偉勲ある者」も、すべて「国葬」とされています。

国を挙げて弔う、葬送する、という意味において、戦前と戦後で変わりがないということがわかります。

したがって、内閣府設置法4条3項33号の「国の儀式」に、①天皇の国事行為として行う儀式(憲法7条10号)と、②閣議決定で国の儀式に位置付けられた儀式を含めることは、この沿革からしても是認できるものと言えます。

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