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菅総理大臣「210名の会員を組織させるのは総理大臣の責任」答弁に関する理解の勘違いについて

川内議員の質疑に対する菅総理大臣の答弁について。

菅総理大臣「理論的には川内議員の言う通り」「210名の会員を組織させるのは総理大臣の責任」

川内 総理は縦割りを打破する、官僚主義を打破するんだと仰っていて、叩き上げだと仰る。私も叩き上げ比べをしてもいいぐらいだと思ってますけども、この問題を解決するできるのは総理しかいないので、これね、突っ張っても違法状態が続くだけなんですよ。なぜなら、総理のところにはね、梶田会長の6名任命してね、お願いしますよという要望書が来ましたよね、これは法的にはたぶん、日本学術会議が6名をもう一回推薦してね、と持ってきてるんですよ、で総理の手に6名の推薦名簿があるんですよ今、その方たちを推薦しないと、210名が会員として揃わないので、総理大臣としての責任を果たしていないって事になるんです。なぜなら、210名の会員を組織させるのは総理大臣の責任だから。最終的に。だから、この問題を解決できるのは総理しかいないんです。たった1人なんですよ、この国で。みんな色んなことを言いますよ。結局、説明できないのであれば任命するしかないし、私はそう思いますよ。 ー省略ー

菅 理論的には川内委員が言われる通りだというふうに思います。で、梶田会長が来られた時にそれは確かに受け取りました、任命の要望書について。その上で、梶田会長とは国民から理解をされる学術会議にしていきたいと、さらに、そのために、さらにそのために何をやるべきかということもを一緒にやっていきたいと、そうしたことについては合意をしまして、いま、井上大臣のところで梶田会長と会談をして、そうしたことを進めさせていただいているところであります。その、任命するしないということは、そのままの状況になっています。で、結果として、理論的には川内委員の言う通りだという風に私は思ってます。

※内閣法制局長が手を挙げたが、委員長は川内議員を指名。内閣法制局長の行為について川内議員が委員長に指摘・要望

菅 たぶん局長が手を挙げたのは、一連の手続きこれ終わっておりますので、仮に任命を行うのには日本学術会議法に沿って、改めて補充のための正式な手続が必要だということです。ですからそのことで今手を挙げたんだろうと思います。

川内 では改めてもう一度、日本学術会議が6名の先生方の推薦を総理に挙げてきたら、そのときは考えるということでよろしいですね。

菅 全体の内容を見て判断することになると思います。

これを見て「菅総理が悪いんだ!」と喜んでる人が居るんですが…

その事の意味、分かってるんでしょうか?

内閣総理大臣に裁量があるということ

基本中の基本ですが、日本学術会議は内閣府に設置された特別の機関たる行政機関です。

210名の組織を構成することの最終的な責任が内閣総理大臣にあるということは、組織構造上、当然のことです。菅総理の答弁は、内閣総理大臣に一定の裁量があると言っているわけです。

それが守られていない場合に、総理大臣は【関連規定を変えることで対応する】ということもできてしまうわけです。

日本学術会議上の扱い

日本学術会議法には以下書かれています。

第七条 日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下「会員」という。)をもつて、これを組織する。
2 会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。
第十七条 日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。
第二十八条 会長は、総会の議決を経て、この法律に定める事項その他日本学術会議の運営に関する事項につき、規則を定めることができる。

日本学術会議は「210人でもって、これを組織する」とあります。

「定員が210名」ではありません。この場合は「上限」ですが、210人でもって組織する、という書き方は、文言上は210名でなければならないという意味です。

ただ、当然、会員が任期途中で死亡などする場合があり得るため、現実には必ず210名の状態が保たれているわけでもなく、それを常に求めるのは不可能であるということが分かります。

内閣府令とは、平成十七年内閣府令第九十三号【日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令】を指します。

規則とは、日本学術会議会則を指します。

補欠の会員候補者の選考・推薦手続について

内閣府令の条文の中身は以下です。

日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令
 日本学術会議法(昭和二十三年法律第百二十一号)第十七条の規定に基づき、日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令を次のように定める。
 日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦は、任命を要する期日の三十日前までに、当該候補者の氏名及び当該候補者が補欠の会員候補者である場合にはその任期を記載した書類を提出することにより行うものとする。

補欠の会員候補者における「任命を要する期日」が何なのか分かりませんが、とにかく、内閣府令ではこのように書いてあります。

たったこれだけです。

他方、日本学術会議会則には、連携会員の補欠が生じた場合の手続がありますが、会員の補欠が生じた場合の推薦の手続は書いてません。

ただ、以下のように幹事会に委任しています。

日本学術会議会則
第八条 会員及び連携会員(前条第一項に基づき任命された連携会員を除く。以下この項、次項及び第四項において同じ。)は、幹事会が定めるところにより、会員及び連携会員の候補者を、別に総会が定める委員会に推薦することができる。
6 その他選考の手続に関し必要な事項は、幹事会が定める。

これに関して、会員が任期の途中において定年、死亡、辞職又は免職により退任する場合には、学術会議内の幹事会申合せに基づいて補欠の会員を選考します。

●補欠の会員の選考手続について 平 成 1 8 年 6 月 2 2 日 日本学術会議第18回幹事会申合せ
  会員が任期の途中において定年、死亡、辞職又は免職により退任する場合、その後任者となる者(以下「補欠の会員」という。)の選考手続については、以下に定める要領に従って行うものとする。ただし、補欠の会員の選任は、少なくとも補欠の会員となった者が1回の通常総会に出席できるよう、任期末の前年の10月の総会以前の総会において補欠の会員候補者の承認を行うことが可能な場合に実施することができる。

前任者が居なくなった時期によっては、補欠を補充せずに、空席のまま前任者の任期が満了する場合があり得るということが分かります。

しかも、「することができる」なので、補欠が生じた場合に任期末の前年の10月の総会以前の総会に補欠の会員が出席できるとしても、補充のための選考をしないという選択肢があり得るということです。この選択をするのは日本学術会議側ということになっています

日本学術会議法上には、補欠に関しては「補欠の会員の任期は、前任者の残任期間とする。」「補欠の会長又は副会長の任期は、前任者の残任期間とする。」「補欠の会員は、一回に限り再任されることができる。」とある以外は、補欠の推薦に関する手続が書いてあるわけではありません。

今回のように任命拒否をした場合の規定はどこにもありません。

総理から学術会議に推薦を求めることができる?

以上見てきたように、会員に補欠が生じた場合の扱いについて、「会員が任期の途中において定年、死亡、辞職又は免職により退任する場合」の選考については学術会議内の幹事会申合せで手続が書かれているが、今回のように任命拒否によって欠員が生じている場合の補欠の選考に関する規定は規則にも幹事会の決定事項にも存在していません。

補欠の会員の推薦手続については内閣府令に書かれていますが、今回のような場合に適用されることを想定したものなのかは判然としません。

もっとも、法律上、会員は「日本学術会議の推薦に基づいて任命」するが、その推薦の手続に関しては内閣府令で決められるようになっています。

そこで、今回のような場合については内閣府令を適用或いは改正して、「総理から学術会議に推薦を求める」という手続を踏むことはあり得る。

川内議員が指摘するように、梶田会長によって、日本学術会議側が6名をもう一回推薦することを求める書類が菅総理の手にあるわけですが、菅総理はそれを聞いた上で「仮に任命を行うのには日本学術会議法に沿って、改めて補充のための正式な手続が必要」と言っているわけです。

つまり、梶田会長の出した書類は正式な手続ではないという意味の可能性。

この答弁は深みのあるもので、要注意だと思います。

以上

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