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天皇陛下に皇位継承とジェンダー平等を質問する記者をどう視るべきか?

問4 現在,皇位継承は男性に限られていますが,長い歴史の中では女性が天皇になった事例もありました。一方,ヨーロッパの王室では近年,性別に関係なく長子を優先して継承する動きが広がっています。皇室の歴史や伝統と,世界的に進むジェンダー平等や女性の活躍推進の動きについて,陛下はどのようにお考えでしょうか。

天皇陛下
 ご質問において言及されたようなヨーロッパの王室などにおける状況はよく承知しています。しかし,昨年も申し上げたとおり,制度に関わる事項について,私から言及することは控えたいと思います。

この記者の質問は論外で、非常に不見識です。

では、どういう理由で不見識なのか?

「天皇・皇族に関してはジェンダー平等など入り込む余地もない」といった内容面など、いろいろ論点はあり得るだろうが、質問それ自体についての問題に関しては

「天皇は憲法で国政に関する権能が無いのだから、それにつき質問するのはおかしい」

という指摘をする者が出てくると思われる。

しかし、そういう発想で良いのだろうか?

皇位継承権に関しては天皇・皇族にイニシアティブ・プレゼンスがあるべきでは?

Twitter上では度々指摘しているが、私は、本来、皇位継承権に関しては天皇・皇族にもっとイニシアティブ・プレゼンスがあるべきではないかと考えています。

現行の制度は、そうはなっていません。

天皇・皇族という存在が歴史的な総体としての国民の総意に基づくという公的な立場であるにせよ、歴史的にも天皇・皇族が中心となって皇位継承制度を考えてきたのであり、世襲である以上は皇位継承制度に関しては天皇・皇族に相当程度の自律性が備わっているべきだと思います。

※新井白石が閑院宮家の創設に繋がる提言をしていたなど、幕府中枢が皇位継承制度の構築・実行に関わりを持っていましたから、天皇・皇族のみが決定権を有するとするべきとは思われない

天皇・皇族に主導権・存在感が認められない皇室会議

日本国憲法 第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

皇位継承に関する話は、皇室典範で決められています。

皇室典範 第五章 皇室会議
第二十八条 皇室会議は、議員十人でこれを組織する。
② 議員は、皇族二人、衆議院及び参議院の議長及び副議長、内閣総理大臣、宮内庁の長並びに最高裁判所の長たる裁判官及びその他の裁判官一人を以て、これに充てる。
③ 議員となる皇族及び最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官は、各々成年に達した皇族又は最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官の互選による。
第二十九条 内閣総理大臣たる議員は、皇室会議の議長となる。
ー中略ー
第三十三条 皇室会議は、議長が、これを招集する。
② 皇室会議は、第三条、第十六条第二項、第十八条及び第二十条の場合には、四人以上の議員の要求があるときは、これを招集することを要する。

現行皇室典範の【皇室会議】は、10人の議員のうち皇族は2名(ここで言う「皇族」には天皇や上皇は含まれない c.f.第五条 皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王を皇族とする。)。

皇室会議の招集権限は議長たる内閣総理大臣にあり、例外的に4人の議員の要求があるときは招集することになるが、皇族2人だけでは招集することすらできません。

対して、旧皇室典範の【皇族会議】は、天皇が親臨し、天皇が皇族に議長となるよう命じる権限があり、基本的な構成員は皇族方となっていました。

旧皇室典範 第十一章  皇族會議
第五十五條 皇族會議ハ成年以上ノ皇族男子ヲ以テ組織シ內大臣樞密院議長宮內大臣司法大臣大審院長ヲ以テ參列セシム
第五十六條 天皇ハ皇族會議ニ親臨シ又ハ皇族中ノ一員ニ命シテ議長タラシム

臣籍降下に関する話し合いも、この皇族会議において行われました。

このように、旧皇室典範までは、天皇・皇族に皇室の構成に関するイニシアティブ・プレゼンスがあったということが分かります。

※なお、旧憲法下で国政について天皇が主導的に判断したのは二・二六事件の鎮圧指示とポツダム宣言受諾に関する御前会議で「外務大臣の意見に同意」した2回のみと言われています。天皇の権能の行使は大臣の輔弼に基づいていた。

旧皇族の皇籍復帰や養子縁組の議論は

旧皇族の皇籍復帰や養子縁組を実施するかどうかは未だ議論が定まっていませんが、仮にその方針になった場合には、現行皇室典範に基づいて【皇室会議】において種々の決定が為されるはずです。

つまり、天皇は皇室会議の構成員ではないので、決定権どころか会議の結論の方向性に関与する権限すら与えられていません。

さて、最初に「天皇は憲法で国政に関する権能が無いのだから、それにつき質問するのはおかしい」という発想で良いのか?と指摘しました。

しかし、憲法2条で皇位継承については皇室典範の定めるところによる、とあるのだから、現行憲法下であっても、皇位継承に関して「国政」に関する話であるとして天皇に権能が無いとするのはおかしい。皇位継承に関しては皇室典範によって決められているということ。

本来は「天皇には皇位継承制度に関して権能が無いのはおかしいのでは?」となるべきではないでしょうか?

記者会見の場で天皇に意見表明させるな

ただし、だからといって記者会見の場で天皇に意見表明させて良いとは思われない。

既に、旧憲法下で国政について天皇が主導的に判断した例が僅少であるということ、皇族会議で天皇が「親臨」していたことを指摘しました。

天皇は、言うまでも無く国家の最高権威です。

そのような立場にあられるお方が、制度に関する方針をあらかじめ示していたらどうなるか?

その発言に影響を受けて意見を変更する者も出てくることが予想されます。

だからこそ、ポツダム宣言受諾を決定した御前会議においても、4対4で決着が付かなかったところに鈴木貫太郎総理が最後に昭和天皇に意見を伺ったのでしょう。

特に、皇室制度は日本国の根幹にかかわること。現行制度上は皇室会議という2名の皇族と8名の「臣下」らで構成される会議で方針決定がなされると予想される事柄について、それに先立って、皇室会議の構成員ですらない天皇が制度に関する意見を表明すれば、その手続が歪んだものになることは明らかでしょう。

旧皇室典範の皇族会議のような状況であっても、天皇の発言の影響という観点は変わりありません。

マスメディアが軽々しく天皇に質問でき、その内容が瞬時に全国民に伝わるような環境になっている現代の状況が異質なのであって、何でもオープンにすればいいなどという話ではない。

このような理由で今般の天皇誕生日の記者会見における記者の質問は甚だ不見識なのであって、「現行憲法では天皇には国政に関する権能が無い」としてそれを出発点とする非難は、的外れなように思われます。

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