聖夜の真紅の液体

クリスマスイブのディナーはもちろん、恋人の店で。恋人の立ち位置前のカウンター席で。でも、もちろん他のお客様の前ではお互いあまり意識し合わないように努めているし、最低限交わす会話は敬語でする。そして、あとからふたりきりになったら、思い切りあんなことやこんなことすれば良いと思っている。
店を出る時、ふたりとも深々と頭を下げて「本当にお世話になりました」と言い合った。なんだかおかしいけれど、ふたりともそうしたい気分だった。この店で友人として仲良くなり、恋人同士になったあとも多くの時間を過ごした。恋人がお客様をお見送りする時にする作法があり毎回わたしにもしてくれるのだが、今日のそれはとても感慨深かった。

そしてわたしは一足先に森へ(森というのはわたしのうちの寝室のことですちなみに)。仕事を終えて現れた恋人が、こんなに忙しい中で一体いつ選んだのだろうと思うけれど、クリスマスプレゼントをくれた。素朴で暖かな彼らしいセレクトでとても嬉しかった。そのあとビールを飲みながら会話しようとしたけれど、悔しいことに朝から稽古でへろへろになっていたわたしに、容赦のない睡魔が襲いかかる。見兼ねた恋人が、「寝よっか」と。
ベッドへ入ったと同時に、「ありがとう」という言葉の代わりとも言うべき、キスの嵐。きっと太古から、「あなたがいてくれてわたしは嬉しいです」という気持ちのぶつけ合いがキスなのだろう。

互いに疲れているのだし、キスだけでいいと思っているものの、キスし続けるとその先はあるもので。恋人にどういうふうにしたい?と聞かれ、あなたの上に座る感じにしたい、と。その体勢をゆっくり味わったあと、恋人がわたしを優しく押し倒し、上から見下ろそうとした瞬間、「あ”ー!!!」

新調したばかりの素晴らしい肌触りのシーツの上に、真紅の液体が。まじか。
予定日、まだ先じゃなかったの?久しぶり会えた嬉しさでトチ狂っちゃった?!仕方がないので中断。暖房の効いている寝室を出て、寒いキッチンのシンクでふたりして震えながらシーツを洗い、「あ、わりと落ちるね」「そうだね、間に合ったね」などと言い合いながら洗い、リビングに干し、シャワーへ。
シャワー入る前に廊下でわたしが膝まづいてしばらく舐め回してみたものの(とても気持ち良さそうな様子に復活したものの)、ふたりとも寒さに負け、それも終了。すこぶる平和にシャワーで洗い流し、おのおの身体を拭き、手を繋いで眠る体勢に。

「ごめんね、せっかく良い感じだったのに中断して」と、わたし。恋人は心底感慨深そうに、「いいんだよ。生きてるってこと。●●さん(わたしの名)の身体、しっかり生きているね」と言った。
次の日(つまりクリスマスの朝)どちらともなく目覚め、一時間ほどベッドの中で会話をした。その後わたしは、午後から発つ海外旅行への荷造りでドタバタ部屋を駆け回り、恋人はクリスマスのご馳走を作った。わたしの大好きなスパークリングワイン(シャンパーニュ製法で造られた南仏産地のロゼ)をあけて、ご馳走を食べた。ずっと、笑っていた。

一応夢もあるし、そのための目標もある。でも一番の願いは、「恋人がずっと元気で、隣で笑ってくれていますように」だ。ありきたりな言葉だけど、恋人に出会わせてもらえたこと、好きになってもらえ、好きになり、愛し合えたこと。これだけで、生きてる限りのクリスマスプレゼントを、もう全部もらってしまった気分だ。


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