火傷の魔女と魔弾の射手 #8【完】
魔女は声高らかに笑った。
空は黒煙に覆われ、炎が舐めずり回る舌のように忙しなく揺らめいている。荘厳なステンドグラスが音を立てて割れていく。灼熱で梁や木材が焼け落ちていく。次第に構造物としての体裁を失い、焼けた石の柱が倒れていく。連鎖的に教会全体が崩れ落ちる。
あの男が死んだ時に湧かなかった感情が、今になって溢れかえってくる。
まさに自分の目の前で燃え盛る教会が、かつて燃やされた我が家の惨状の再現だからだ。あの時もまさに同じだった。単なる偶然か、それとも運命か。今回は焼く側と焼かれる側が逆転しただけだ。因果応報と言うべきか、自業自得と言うべきか。いいや違う。
「私が生き残った、私の勝ちだ、ざまぁみろ!」
私が魔術で修復した武器がこれを成し遂げたのだ。だから、私の勝ちだ。
涙が出るほど笑った。フードがはだけて顔の火傷が曝け出されても、まったく気にならなかった。
笑うしかなかった。
しばらくもしないうちに、青年が魔女の肩を掴みながら呼びかけた。
「もう十分か」
「あー、そうだな。そろそろ逃げようか」
魔女は頬に伝う涙を拭う。叶うならなら燃え尽きるまでこの屋根の上にいたかったが、そうもいかない。
「何か準備はいるか」
「もちろん。工房に戻らねばならん。旅支度しないとな」
青年はわかった、と了承する。全身に仕込んだ装備を念入りにチェックしているあたり几帳面な性格なのだろう、と魔女は遠巻きに見ながら想像する。
この青年が私に未来の武器である銃を見せ、それを魔術によって修復させたということはそういうことだ。あの銃が治らなければ青年は教会を襲撃できなかった。
青年がやることが未来に影響を与えるのなら、あれは偶然ではなく必然でなければならない。
未来に私の信じる魔術が通じる世界が、そこに存在するのだ。
それは私にとっての運命でもあり、希望でもあり、福音でもあった。
青年はぶっきらぼうに腕を差し出してくる。
「行くぞ。掴まれ」
「ああ、頼んだぞ」
火傷の魔女は、魔弾の射手の腕を愛おしく掴んだ。
【完】
私は金の力で動く。